成果主義人事の限界『(その6)アジャイルな人事変革の必要性』 Author:松丘 啓司

2020年12月4日|カテゴリー「人事制度コラム
こちらのブログでは、「成果主義人事の限界」をテーマに、「現状の成果主義人事のどこが、なぜ問題なのか、どのように変えていくことが必要か」という問いに対して、全6回の連載で順を追って解説しています。
今回は最終回アジャイルな人事変革の必要性についてお届けします。

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成果主義人事の限界『(その6)アジャイルな人事変革の必要性』
企業におけるこれまでの人事のスタンスは、「アジャイル(機敏、俊敏)とは真逆でした。
例えば、評価制度の刷新を行おうとすると、設計段階で1年を要し、その後の社内調整に1年をかけ、やっと3年目に導入するといったスピード感が普通でした。
評価制度の導入にはそれほど時間と手間がかかるので、いったん導入したら数年間は手直しをせず、10年以上使い続けている企業も少なくないと思われます。

その結果、企業の人事にはスピードを犠牲にしてでも公平性の担保やリスク回避を重視しようとする価値観が根強く残っています。
6~7割程度の完成度で導入して運用しながら改良していくという発想は乏しく、抜け漏れがないことを慎重に確認してから本番導入するという仕事の進め方が固定化しています。
これはまさに、「ウォーターフォール型」そのものです。

しかし、ビジネス自体がアジャイル化していく状況において、従来のスタンスを維持したままでは、人事がビジネスの変化に対するストッパーになってしまう恐れがあります。
従業員の意識や行動が変わらなければ、ビジネスは変わることができないからであり、人事のスタンスが従業員の意識や行動に大きな影響を及ぼすからです。

そのため、これからの時代においては、人事こそアジャイルな仕事の進め方を率先すべき立場にあります。
「人事が具体的に決めてくれないから現場は動けない」といった言い訳が通用する間は、ビジネス自体も変わることができません。
現場の主体性や自律性を高めるために、最初に人事から変わる必要があるのです。

制度の番人からビジネスの支援者へ

成果主義人事の限界『(その6)アジャイルな人事変革の必要性』
成果主義人事は中央集権による業績管理を徹底させるための制度でした。
全社目標の達成を最重要課題として組織を動かすために、個人に目標をブレークダウンして、人事評価の面から外発的に動機付ける制度が成果主義人事であったといえます。
そのため、制度は法律のように精緻でなければならず、その運用は厳格なものでなければなりませんでした。人事はあたかも「制度の番人」のように、管理・統制を行う役割を担っていたのです。

しかし、管理・統制からはイノベーションは生まれません。
ビジネスがVUCAの環境に適応し、イノベーションを起こしていくためには、現場におけるトライアンドエラーが求められます。
そのためには、現場の主体性・自律性が必要とされるため、これからのパフォーマンスマネジメントは、事業部門の裁量の幅を広げるものでなければなりません。

これまでは上から下りてきた目標や評価基準に忠実に従って実行していればよかったものが、これからは自分たちで考えて運営していかなければならなくなります。
目標をどのように設定するか、賞与をどのように配分するか、等級決定をどうするかといったことに、事業部門は責任を持って対応しなければなりません。

また、個々人がチャレンジマインドを持って行動できるようになるために、一人ひとりを内発的に動機付けるマネジメントが必要とされるようになります。
目標管理一辺倒だった従来のマネジメントをピープルマネジメントに変えていくために、それぞれの事業部門は1 on 1の定着化などに対して、積極的に取り組まなければなりません。

これらの取り組みを推進するためのノウハウをビジネス側が持ちあわせていないことが通常であるため、人事によるサポートが必要になります。
あくまでも主体はそれぞれの部門ですが、人事にはビジネス側の変革を可能にするための「支援者」の役割を担うことが求められるのです。

小さく産んで大きく育てる

成果主義人事の限界『(その6)アジャイルな人事変革の必要性』
しかし、問題は人事側においても、これからのパフォーマンスマネジメントを支援するための十分なノウハウを持ちあわせていないところにあります。
そのため、人事部門におけるノウハウの蓄積が急がれますが、時間をかけて勉強すればよいわけではなく、ここでもアジャイルなアプローチが重要になります。
実際に経験しなければ、効果的な学習ができないからです。

今後の人事部門の役割として、HRビジネスパートナー(HRBP)の考え方を導入する企業が増えています。
このモデルにおいては、人事の役割は大きく以下の3つに集約されます。
・HRBP:ビジネス部門を人事の面から戦略的に支援する役割

・COE(センターオブエクセレンス):HRに関連する専門性を提供する役割

・HRシェアドサービス:人事関連の業務処理を効率的に行う役割


HRBPCOEがこれまでには明確に定義されてこなかった機能ですが、これらの役割を定めたからといって、すぐに成果が現れるわけではありません。
具体的な施策を伴っていなければ、役割はできたもののやっていることはこれまでと同じ、といった状況に陥ってしまいます。

しかし大きな企業では、全社的に変革を起こそうとしても変革に対する抵抗が強く、人事側も十分にノウハウを伴っていないため、うまくいかないリスクが少なくありません。
そのような場合は、変革に対して前向きな部門をパイロットに選定して、小さく始めることが効果的です。
パイロット部門での取り組みにおいて具体的なノウハウを蓄積したうえで、全社的にHRビジネスパートナーモデルを導入した方が、スムーズに移行できる可能性が高まります。

パイロット部門において評価制度の見直しなどを行う場合は、「特区」のような取り扱いが必要になります。
人事制度は全社一律でなければならないという考え方が強い会社では抵抗があるかもしれませんが、「人事が変わった」という象徴的なインパクトが示せる効果もあります。
まず、人事が変わった姿を見せることによって、事業部門の変革を促すことができるのです。

人事のキャリア開発機会を自ら広げる

成果主義人事の限界『(その6)アジャイルな人事変革の必要性』
人事の方の中には、自らの役割を変えることへの抵抗がある人がいるかもしれません。
しかし、この変革は人事を抑圧するものではなく、これまでよりもはるかに活躍の幅を広げることを意味しています。

HRBPが機能すれば、「従来の制度の番人」の立ち位置では感じられなかった、ビジネスへの貢献実感を得られることでしょう。
それによって人事の仕事における働きがいは大いに高まるはずです。

また、既存制度の知識だけではなく、人材開発、組織開発、HRテクノロジーなどの新たな専門性を獲得することによって、人事プロフェッショナルとしての成長の幅も広がります。

「成果主義人事の限界」と題した6回の連載も、今回が最終回となります。

「人事が変わらなければ会社は変わらない」というのは言い古された言葉ですが、今ほど、この言葉が当てはまる時代はないと思います。
人事が率先して変革に取り組むことによって、会社が変わるだけでなく、人事に従事する方々のキャリア開発機会も拡大するのです。
人事という仕事をビジネスにおける素晴らしいキャリアにできるかどうかは、自ら行動するかどうかにかかっているといえるでしょう。

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ゲストプロフィール

松丘啓司
松丘啓司(まつおか・けいじ)
株式会社アジャイルHR 代表取締役社長

1986年 東京大学法学部卒業。アクセンチュア入社

1992年 人と組織の変革を支援するチェンジマネジメントサービスの立ち上げに参画。以後、一貫して人材・組織変革のコンサルティングに従事

1997年 同社パートナー昇進。以後、ヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任

2005年 企業の人材・組織変革を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し、代表取締役に就任(現任)

2018年 パフォーマンスマネジメントを支援するスマートフォンアプリ「1on1navi」をリリース後、株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任し、日本企業のパフォーマンスマネジメント変革の支援をミッションとして活動中

著書は多数に上るが、「1on1マネジメント」(2018年)はピープルマネジメントの教科書として多くの企業で活用されている。「人事評価はもういらない」(2016年)は人事だけでなく一般の読者にも広く読まれるベストセラーとなった。

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