成果主義人事の限界『(その2)ウォーターフォール型からアジャイル型マネジメントへ』 Author:松丘 啓司

2020年11月9日|カテゴリー「人事制度コラム
こちらのブログでは、「成果主義人事の限界」をテーマに、「現状の成果主義人事のどこが、なぜ問題なのか、どのように変えていくことが必要か」という問いに対して、全6回の連載で順を追って解説しています。
今回はその中の2回目『ウォーターフォール型からアジャイル型マネジメントへについてお届けします。

★前回の記事を読む
成果主義人事の限界『ウォーターフォール型からアジャイル型マネジメントへ』
期初に目標を設定して、期末にその達成度に基づいてレーティングを行うという従来の成果主義人事の方法は、レガシービジネスにおけるマネジメントモデルを前提としています。
ここでいうレガシービジネスとは、既にビジネスモデルが確立されたコア事業のことを指しています。
レガシービジネスにおいては顧客市場も、ビジネスの成功の方程式(成功要因、戦い方)も確立されているので、将来がある程度は予見可能であり、従来の目標管理・評価の方法が成り立ちうるのです。

過去における正しいビジネスの進め方とは、まず中長期の経営計画を作成し、それに基づいて年度の事業計画を立て、事業計画に定められた全社の目標を部門、チーム、個人へと滝(=ウォーターフォール)のようにブレークダウンして、各個人に実行させることでした。
その実行を徹底させるために、目標の達成度によって評価するという手法が採用されたのです。
その前提は、経営計画を着実に実行すれば業績が向上するという図式が成り立つことであり、さらに前提として、そもそも将来の経営環境が予見可能という条件がありました。

VUCAの進展とともに、こうしたウォーターフォール型マネジメントは機能しづらくなっているのです。

ウォーターフォール型マネジメントは企業の成長を阻害する

成果主義人事の限界『ウォーターフォール型からアジャイル型マネジメントへ』
しかし、日本の大企業の多くは、現在でも国内市場におけるレガシービジネスに依存しています。
海外売上比率はかなり高まっていますが、まだまだ国内市場からの売り上げ、利益のウエイトが大きく、何よりも日本人従業員の大多数が国内のレガシービジネスに従事している状態にあります。
国内市場は既に飽和しており、人口減少とともに今後、徐々に縮小していくことは周知の事実ですが、その縮小のスピードが緩やかであるため、なかなか変革への危機感が高まりません。

その一方で、新たなイノベーションが必要とされるスタートアップビジネスにおいては、従来の目標管理のやり方でマネジメントを行うことが困難です。
ここでいうスタートアップビジネスとは、ビジネスの成功の方程式自体をこれから作っていくことが求められる事業を指しています。
それらは今後の成長が可能な領域ですが、ビジネスモデルが確立されていないため、将来を予見することは困難です。

VUCAの環境においては、期初に目標を立てて期末にその達成度で評価を行おうとしても、目標の前提条件自体の変動が激しく、不確実性が高いために、従来のような半期や年次で区切った目標管理が意味をなさなくなってしまいます。
そのため、成果主義人事に基づく従来のマネジメント方法を続けていても、スタートアップビジネスはうまく立ち上がらず、いつまでたってもレガシー依存の状態から抜け出せません。
その結果、企業は次第に衰退していく危険性を抱えてしまうことになるのです。

ウォーターフォール型とアジャイル型の違い

成果主義人事の限界『ウォーターフォール型からアジャイル型マネジメントへ』
VUCAの環境において、スタートアップビジネスを伸ばすために求められるのは、アジャイルな(機敏な)マネジメントです。
どうすればうまくいくのかが不明瞭であるため、仮説を立てて、やってみて、その結果を踏まえて、次のアクションを考えるといった、実験と検証を繰り返すマネジメント方法が必要とされます。
上から「こうすればうまくいく」と正解を伝えることはできないので、現場で一人ひとりが考えながら行動しなければならないのです。
ウォーターフォール型とアジャイル型マネジメント方法には、以下のような基本的考え方の違いがあります。

アウトプットの量ではなくアイデアの質を重視する

成果主義人事の限界『ウォーターフォール型からアジャイル型マネジメントへ』
ウォーターフォール型のマネジメントが行われている企業で非常によく目にするのが、「対前年比、売上3%増」といった目標設定です。
市場の規模が拡大していないなかで3~5%増であってもストレッチ目標ですが、3%成長程度の目標では根本的な発想の転換はなかなか起こりません。
多くの場合、3%分インプットを増やしてアウトプットを増やそうとする行動が強化されます。
その証拠に、成果主義人事が導入されてからの過去20年間、日本人の平日1日当たりの労働時間は少しずつ延び続けています。

スタートアップビジネスにおいては、いうまでもなくインプットを増やしたからアウトプットが拡大するという関係は成り立ちません。
量の問題ではなく、アイデアの質が重要だからです。同じ行動をたくさん行うことよりも、「次はこうしてみよう」「別のアプローチもあるのではないか」と、視点や角度を変えながら様々なアイデアを試す姿勢が必要です。
また、その前提として、一人ひとりが自分の意見を自由に発言できる環境が不可欠となります。
「こんなことを言ったら批判されるのではないか」とリスクを感じるような環境では、自分のアイデアを安心して話すことはできません。

ウォーターフォール型マネジメントにおいては、皆が同じように考え、同じように行動することが奨励されるため、異なるアイデアは排除されがちです。
一方、アジャイル型マネジメントにおいては、イノベーションを起こすために、多様な視点や価値観が尊重されるカルチャーが構築される必要があるのです。

失敗を回避するのではなく失敗から学ぶ

成果主義人事の限界『ウォーターフォール型からアジャイル型マネジメントへ』
ウォーターフォール型マネジメントにおいては、所与の目標を確実に達成することが最大の命題となるため、目標達成を妨げる「失敗」を回避する行動が促されます。
そのため、成功確率がよく分からないビジネスチャンスは無視され、リスクを取らない安全志向のカルチャーが強化されます。
ウォーターフォール型マネジメントの浸透した組織で、部下が何かに「チャレンジしたい」と言った時、「責任を取れるのか」と上司に諭されるような場面がよく見られるのはその一例です。

実験と検証を繰り返すスタートアップビジネスにおいては、何かをやってみた際に、うまくいくことよりもうまくいかないことの方が多いのが当たり前です。
「うまくいかないかもしれないから何もやらない」という姿勢からは成果が生まれません。
そのため、失敗を回避するのではなく、いかに素早く効果的に失敗から学ぶかが重要となります。

アジャイル型マネジメントでは、本人がアクションの結果を振り返り、何がよくて何が課題かに気付くための「リフレクション(内省)」を促すことが求められます。
仮説を立てて、実行し、その結果から学ぶプロセスが経験学習です。
変化が短サイクル化している環境において、経験学習のプロセスも短サイクル化しています。
そのため上司には、頻繁なフィードバックを通じて、部下の経験学習を支援する役割が求められるのです。

目標を与えられるのではなく自律的に目標を設定する

成果主義人事の限界『ウォーターフォール型からアジャイル型マネジメントへ』
ウォーターフォール型マネジメントは、外発的な動機付けを基本としています。
目標を達成すれば高い評価を与えるので、それに向けてがんばれと動機付けるのです。
しかし、スタートアップビジネスでは、共通の目標を上から与えることができません。
そこで、現場において一人ひとりが自律的に目標を設定して、行動することを促す必要があります。
そのため、個々人に応じた内発的な動機付けが求められるのです。

ウォーターフォール型マネジメントの大命題は目標を達成することにあるため、マネジメントの基本は達成度を管理することにあります。
売り上げや利益といった結果指標だけでなく、それに至る中間指標をKPIとして設定して進捗状況を管理します。
それらは、結果に至るプロセスを管理するものであり、個々人の内面的な違いには目が向けられません。

一方、アジャイル型マネジメントにおいては、個々人に応じたマネジメントが不可欠となります。
何に対して意欲を高めるかといった内的動機は、それぞれ異なります。また、モチベーション向上とともに発揮される強みも一人ひとり違います。
そのため、個々人のパフォーマンスを最大限に引き出すためには、個々人ごとの内的動機や強みを十分に発揮させるマネジメント(=ピープルマネジメント)が必要とされるのです。
つまり、個に着目したマネジメントが強く求められるようになります。


以上、ウォーターフォール型マネジメントとアジャイル型マネジメントを対比させて述べてきましたが、ウォーターフォール型マネジメントにアジャイルな要素が全く必要でないという訳ではありません。
レガシービジネスにおいても、変化のサイクルは短縮化し、顧客のニーズは多様化し、技術の進化による影響も小さくありません。
したがって、ウォーターフォール型マネジメントにアジャイル型マネジメントの要素を組み込む工夫が必要とされます。
そのためには、後の回で述べる上司と部下の1on1の対話のデザインが重要となるのです。


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ゲストプロフィール

松丘啓司
松丘啓司(まつおか・けいじ)
株式会社アジャイルHR 代表取締役社長

1986年 東京大学法学部卒業。アクセンチュア入社

1992年 人と組織の変革を支援するチェンジマネジメントサービスの立ち上げに参画。以後、一貫して人材・組織変革のコンサルティングに従事

1997年 同社パートナー昇進。以後、ヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任

2005年 企業の人材・組織変革を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し、代表取締役に就任(現任)

2018年 パフォーマンスマネジメントを支援するスマートフォンアプリ「1on1navi」をリリース後、株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任し、日本企業のパフォーマンスマネジメント変革の支援をミッションとして活動中

著書は多数に上るが、「1on1マネジメント」(2018年)はピープルマネジメントの教科書として多くの企業で活用されている。「人事評価はもういらない」(2016年)は人事だけでなく一般の読者にも広く読まれるベストセラーとなった。

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