【さまざまな分野】第37回 成果主義人事の限界『(その1)VUCAの時代と成果主義人事のミスマッチ』 Author:松丘 啓司

2020年11月2日|カテゴリー「さまざまな分野 ,さまざまな分野
こちらのブログでは、「成果主義人事の限界」をテーマに、「現状の成果主義人事のどこが、なぜ問題なのか、どのように変えていくことが必要か」という問いに対して、全6回の連載で順を追って解説しています。
今回はその中の1回目『VUCAの時代と成果主義人事のミスマッチ』についてお届けします。
成果主義人事の限界『第1回 VUCAの時代と成果主義人事のミスマッチ』
昨年、『人事評価はもういらない』という本を出版して以来、数百社におよぶ企業の人事の方々に対して、このテーマでお話しをしてきました。
多くの企業の実情を伺い、考えれば考えるほど、日本企業の成果主義人事は既に限界に達しているという確信が強まっています。
実際に人事向けセミナーなどで成果主義人事の問題点をチェックしてもらうと、「すべて当社に当てはまります」と発言される参加者は少なくありません。

ところが、それほど問題を抱えているのにもかかわらず、根本的な変革に踏み切る企業はあまり多くありません。
その理由として、成果主義人事があまりにも組織に浸透してしまったため、組織の上から下まで染み込んだ固定観念からなかなか脱却できないことが挙げられます。

一方で、人事部門では問題を認識しながらも、成果主義のなかでこれまで昇進してきた経営層を説得する自信がないという担当者も見られます。
人事制度を企業に指導するコンサルタントの側が、従来の発想から脱却できていないという要因も見過ごすことはできないでしょう。

大前提としてお断りすると、私は成果に基づく評価を否定しているわけではありません。
多くの企業が採用している成果主義人事の方法論を問題視しているのです。

その方法論とは、簡単に述べると、①年度または半期ごとに組織目標を個人目標に落とし込み②その達成度を評価して点数化(レーティング)し、③レーティングの結果をもとに報酬や等級を決める、というやり方を指しています。

本連載では、現状の成果主義人事のどこが、なぜ問題なのか、どのように変えていくことが必要か、という問いに対して、順を追って解説していきたいと思います。

成果主義人事は歴史的使命を終えた

その昔、戦後の高度成長時代の日本企業には、確たる評価制度はありませんでした。
右肩上がりの経済成長のもと、年功序列・終身雇用の制度によって毎年、社員の処遇が上がっていくため、わざわざ評価で差を付ける必要がなかったからです。
経済成長が鈍化した70年代に入ってやっと、社員の能力開発への動機付けを高めるために、多くの企業が職能資格制度による評価を導入しました。
しかし、経験を積めば能力が高まるという年功主義的な考え方がベースにあったため、評価の個人差はそれほどありませんでした。

成果主義人事の限界『第1回 VUCAの時代と成果主義人事のミスマッチ』
現在の成果主義が導入され始めたのは、90年代になってバブル経済が崩壊して以後です。
日本経済は極めて低成長の時代に入りました。
時を同じくして、グローバル経済が進展し始めました。
資本が国境を越えて自由に移動するようになると、年功主義に基づいた日本企業の高固定費構造が大きな足かせとなりました。

そこで導入されたのが成果主義人事です。その目的は以下の2つに集約されます。

(1)年功主義に起因する固定費構造を解消すること
(2)低成長経済のなかでも売り上げを維持・伸長させるために強い動機付けを働かせること

それらの目的を実現するために、目標管理制度と成果主義による評価制度が導入されました。
つまり成果主義人事制度は、企業の業績管理システムを補完する位置づけにあったといえます。

90年代の半ば以降に日本企業の多くが類似の成果主義人事を導入してから、およそ20年が経過しようとしています。
その間に極端な成果主義の弊害を是正するための改良が加えられてきましたが、根本的な思想は大きく変わっていません。
これまでの成果主義人事の成果を総括するなら、(1)の高固定費構造の見直しについては、一定の成果をあげたといえるのではないかと考えられます。
デフレ経済下で所得が伸びない状況を作ってしまったことがよかったかどうかはともかくとして、人件費構造はこの20年で随分と変わりました。

(2)に関して、日本企業の国内売り上げは全体として伸びていません。この間、総人口は減少に転じ、需要自体が拡大していないので当然のことといえますが、このまま同じやり方を続けても一層の成長は期待できないでしょう。

それに加えて、企業を取り巻く環境は急速に、大きく変化してきています。やや大げさな言い方をすると、成果主義人事は20年を経て、一定の歴史的使命を終えたといえるのではないかと考えています。

VUCA時代におけるマネジメントの変化

成果主義人事は、組織マネジメントの方法論と捉えることができます。
ところが、その根本にあるマネジメントのあり方自体が環境変化とともに大きく変化しています。

多くのアメリカ企業が年次評価(レーティング)を廃止して、新しい目標管理のプロセス(英語ではパフォーマンスマネジメントといいます)を導入していますが、その背景には企業を取り巻く大きな環境変化があるのです。
その環境変化はアメリカ固有の問題ではなく、グローバルで共通したものです。
その環境変化を表すキーワードが、いわゆる「VUCA」です。

VUCAの時代において、企業がパフォーマンスを向上させるためには、これまでとは異なるマネジメントスタイルが求められます。以下では、VUCAが求める、4つのマネジメント変革のポイントを解説しましょう。

成果主義人事の限界『第1回 VUCAの時代と成果主義人事のミスマッチ』
V(Volatility:変動の激しさ)は、変化の短サイクル化、スピードの加速を意味します。

AIなどの技術進歩が典型例ですが、技術の進歩がさらなる技術進歩を生む状況が生まれています。
昔から、企業が生き残るためには生物と同様に環境変化に適応することが不可欠であるといわれてきましたが、それがいよいよ待ったなしの状況になってきたといえます。

グローバル人事の専門家に、欧米人のリーダーと日本人のリーダーの最大の違いは何かと尋ねると、意思決定のスピードが真っ先に挙げられます。
日本企業では意思決定までに様々な関係者に配慮したり忖度したりするために、時間がかかってしまうことが少なくありません。

しかし、VUCAの時代においては、環境変化と意思決定の乖離は命取りになりかねないのです。

U(Uncertainty:不確かさ)は、想定できない結果が頻繁に起こることを意味します。

代表例としてしばしば挙げられるのが、昨年のイギリスのEU離脱やトランプ大統領の誕生です。ビジネスの世界においても、想定外の結果が現実のものとなった事例は枚挙にいとまがありません。

想定外の結果が生じるのは、裏を返せば事前の想定が強すぎることを物語っています。
過去の成功体験やこれまでの社内における常識が強固であればあるほど、それ以外の可能性を想定できなくなってしまいます。
従来のビジネス(レガシービジネス)における成功の方程式に安住するのではなく、新たな環境における新たな方程式を常に模索していなければ、想定外の結果は必ず起こってしまうのです。

成果主義人事の限界『第1回 VUCAの時代と成果主義人事のミスマッチ』
C(Complexity:複雑さ)は、文字通り企業経営において勘案すべき変数が、過去よりもはるかに複雑になっていることを意味します。

グローバル化、技術の進歩、政治情勢の変化、新たな競合の出現、顧客ニーズの多様化など、企業経営において考慮すべき要素は多数に上り、それらが相互に関連し合いながら、しかも短サイクルで変化しています。

シンプル・イズ・ベストという言葉がありますが、極めて複雑化した今日の企業を単純な方法論で経営するのは大変危険です。
最適解を見いだすためには、多様な視点や多様な専門性が不可欠であるばかりでなく、それらの多様な人々が自分の意見を臆することなく発言できる環境が必要とされるのです。

A(Ambiguity:曖昧さ)とは、物事の意味合いやトレンドが不明瞭であることを意味します。

つまり、因果関係を明確に説明することが難しくなっているのです。
例えば、SNSツールのLINEは空前のヒットとなり、その要因としてスタンプがうけたとか、グループ機能がよかったとか説明されますが、それらはどれも後付けの理由です。
LINEのずっと前から電子メールは存在したし、リアルタイムのチャットツールもたくさんありました。
論理的に考えると、既に競合サービスがたくさんあるから勝算が少ないと判断されてしまったでしょう。

論理的な分析ばかりではなく、こんなサービスがあったら便利そうだとか、こんなサービスが欲しいとかいった、どちらかというと感覚的な理由からでも、小さく始めてみて、ユーザーの反応を機敏に取り入れながら育てていくことが、逆にビジネスを成功させるための方法論になりつつあります。
また、そのようなアプローチを可能にするためには、現場においてトライアンドエラーが奨励される環境が必要とされるのです。


これまでの成果主義人事をベースとした硬直的なマネジメントのままで、VUCAの時代に立ち向かうのは困難です。
次回からはその理由をより詳細に解説したいと思います。

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松丘啓司
松丘啓司(まつおか・けいじ)
株式会社アジャイルHR 代表取締役社長

1986年 東京大学法学部卒業。アクセンチュア入社

1992年 人と組織の変革を支援するチェンジマネジメントサービスの立ち上げに参画。以後、一貫して人材・組織変革のコンサルティングに従事

1997年 同社パートナー昇進。以後、ヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任

2005年 企業の人材・組織変革を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し、代表取締役に就任(現任)

2018年 パフォーマンスマネジメントを支援するスマートフォンアプリ「1on1navi」をリリース後、株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任し、日本企業のパフォーマンスマネジメント変革の支援をミッションとして活動中

著書は多数に上るが、「1on1マネジメント」(2018年)はピープルマネジメントの教科書として多くの企業で活用されている。「人事評価はもういらない」(2016年)は人事だけでなく一般の読者にも広く読まれるベストセラーとなった。

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