【さまざまな分野】第34回 『1on1の導入を目的にしてはならない(その6)』 Author:松丘 啓司

2020年10月12日|カテゴリー「さまざまな分野 ,さまざまな分野
こちらのコラムは「これからのパフォーマンスマネジメント」をテーマに全6回の連載でお届けいたします。今回は最終回の6回目です。
※パフォーマンスマネジメント…目標管理制度や評価制度に基づいて、個人と組織のパフォーマンス向上を促進するマネジメントのこと

1on1の導入を目的にしてはならない
1on1を導入しようとすると、現場のマネジャーから次のような声が上げられることがよくあります。
1on1なんてやる意味があるのか?
自分は部下と十分にコミュニケーションを取っているので1on1の必要はない

推進側の人事担当者が1on1の必要性を説明しても、なかなか理解してもらえません。
もちろん、現場のマネジャーのすべてがそうではないので、1on1に消極的な人は後回しにして、積極的なマネジャーに手を挙げてもらって始める方法が取られることもよくあります。
そのようなアプローチが間違っているわけではありませんが、そもそもマネジャーに理解してもらうべきことを取り違えているのです。

1on1の必要性を理解させようとするから、理解されないのです。

1on1は手段であって目的ではない

1on1の導入を目的にしてはならない
別の例をご紹介しましょう。先日、マネジャー向けのワークショップであげられた質問に対する私とのやり取りです。

相手:「部下に目標を考えさせるよりも、上から命じた方が早いのではないか?」
:「確かに短期的にはそうでしょうね。でも、それを続けていると、部下の方々はますます受け身になりますよね。もし、あなたがけがで入院でもしたら、部下の方々は何をしたらよいか途方に暮れるのではないですか?」

相手:「そうかもしれないが……」
:「理想的には、あなたが何も命じなくても、部下が自分で考えて成果をあげられるようになるのが、いちばん早いのではないでしょうか?」

相手:「それは理想だが、すぐには無理だ」
:「もちろん、すぐにはできません。けれども、やり始めないとあなたの部下はますます待ちの姿勢を強めてしまいます。一度にすべて変えることはできなくても、この仕事はあなたに判断を任せますと、少しずつ自分で考えさせる範囲を広げていく必要があるのではないですか?」

相手:(うなずく)
:「私たちは、部下が自律的に成果をあげる状態を目指すという、壮大なチャレンジをしているのです」

このケースにおける目指す姿は、「部下が自律的に行動する状態」を実現することです。
それによって、これまで以上に「成果をあげる=パフォーマンスを向上する」ことが目的です。
1on1はあくまでもそれに至る手段なのです。
非常に重要な手段ではありますが、目的ではありません。

多くの企業において、「上司と部下のコミュニケーション不足」が問題になっています。
しかし、コミュニケーション不足を解消するために1on1を導入しようとすると、「コミュニケーションを増やすこと=1on1の実施」が目的になってしまいがちです。
1on1の導入を目的にしてしまうと、推進担当者の視点は「どうすれば1on1をうまく実施できるか」に向きがちです。
そうなると、次のような目先のハウツーが関心事となってしまいます。

・1on1の実施をルール化すべきか?
・1on1で何を話題にしたらよいか?
・どのような研修を準備したらよいか?

もちろん、これらのことを検討することも必要ですが、それ以前に上司と部下のコミュニケーションを増やすことによって何を実現したいのかが明確にされていることが必要です。
さもなければ、現場のマネジャーには「何のために1on1を導入するのか」が理解できません。

先ほどの例を用いると、「部下が自律的に行動する状態を実現すること」が目的です。
多くのマネジャーにとっては、このような大目的の方が賛同しやすいことでしょう。
そのうえで、そこに至る個別具体論として1on1を導入することを示すシナリオが必要なのです。

個人と組織の目指す状態を描く

1on1の導入を目的にしてはならない
最終的な目的は組織のパフォーマンスを向上することにありますが、それは最終結果なので、どのような状態を実現すれば組織のパフォーマンスが向上するかという実現イメージを示すことが重要です。

組織のパフォーマンス向上というと大上段すぎる。
従業員の離職を減らすために1on1を導入したいのだという企業もあるでしょう。
そのような場合でも、どのような状態を実現すれば従業員が喜んで働き続けるのかを考えることが必要です。

そうした状態は、「個人の状態」と「組織の状態」の2つの視点で表現することができます。
目指す状態は企業によって異なりますが、そのシナリオを考える視点を以下に例示します。

1on1の導入を目的にしてはならない
働く人の動機と組織のパフォーマンスの関係性に基づくトータルモチベーション(ToMo)の研究結果によると、成果をあげる動機には以下の3つがあげられています。

・仕事を通じた実験や学習に「楽しさ」が感じられること
・その仕事の結果が自分の価値観に一致した「意義」を感じられること
・その仕事に携わることが自分の将来の「可能性」につながると感じられること

つまり、個々人が仕事を通じた「楽しさ」「意義」「可能性」を感じられれば、組織のパフォーマンスは向上するのです。

したがって、従業員がそうした動機を満たしながら働けることを目指して1on1を実施するといったシナリオを描くことができます。

あるいは、コミュニケーションの課題でしばしば用いられるダニエル・キム氏の成功循環モデル(関係の質⇒思考の質⇒行動の質⇒結果の質)に基づいて、個々人が最終的に結果の質を高められるように1on1で支援するといった人材開発重視のシナリオを描くこともできるでしょう。

ただし、この場合、「関係の質」を高めれば自動的に「結果の質」が高められる訳ではないということに注意が必要です。
結果の質」をどのように変えるために、思考や行動をどう変えることが必要で、その方向を目指して1on1で何を支援するか、という順番でのシナリオが必要です。

いずれのフレームワークを用いるにせよ、個々人にどうなってほしいのかというゴールを明示することが重要です。

1on1の導入を目的にしてはならない
1on1を通じて個人の働く動機や思考・行動の質の変化を促そうとしても、個々人を取り巻く組織のカルチャーがそれを阻むケースも少なくありません。

そのため、1on1を単に上司と部下の関係にとどめず、組織カルチャーの変革を目指すための取り組みと位置付けることも重要です。

たとえば、一人ひとりが思ったことを気兼ねなく言い合える「心理的安全性」の高い組織を創ることを目的とすることもできます。
あるいは、多様な個人の違いを尊重するカルチャーを創ることや、失敗を非難せずにトライアンドエラーを重んじる学習するカルチャーを創ることが目的とされる場合もあるでしょう。

これらの組織カルチャーは企業として何を重視するかといった価値観(バリュー)に依存するため、経営者がそのバリューの浸透にコミットしていることが不可欠です。
逆に言うと、経営者のコミットメントなしに1on1だけ導入して成果をあげることは難しいのです。


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◆株式会社アジャイルHR
松丘啓司
松丘啓司(まつおか・けいじ)
株式会社アジャイルHR 代表取締役社長

1986年 東京大学法学部卒業。アクセンチュア入社

1992年 人と組織の変革を支援するチェンジマネジメントサービスの立ち上げに参画。以後、一貫して人材・組織変革のコンサルティングに従事

1997年 同社パートナー昇進。以後、ヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任

2005年 企業の人材・組織変革を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し、代表取締役に就任(現任)

2018年 パフォーマンスマネジメントを支援するスマートフォンアプリ「1on1navi」をリリース後、株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任し、日本企業のパフォーマンスマネジメント変革の支援をミッションとして活動中

著書は多数に上るが、「1on1マネジメント」(2018年)はピープルマネジメントの教科書として多くの企業で活用されている。「人事評価はもういらない」(2016年)は人事だけでなく一般の読者にも広く読まれるベストセラーとなった。

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