第7回 「一括or年金?」~退職金の受け取り方法~ 前編 Author:石村 衛

2021年3月26日|カテゴリー「石村先生と考える“心豊かな人生100年時代”
退職金の受け取り方法
退職金」についてネットなどで情報を収集してみると「税金面での優劣に関する記述」が多いように感じます。

そこで、一時金のみ支給の企業と併用の企業があるという退職給付金制度自体のそもそも論と、税金面を含めた退職後の生活について「どう役立てるのか?」という、2つの視点が重要だと認識しました。

今回は2回に分けて前編で退職給付を年金で受取る場合の税負担について」後編で「一時金or年金?退職給付の受け取り方法は?」についてご紹介いたします。
シニア社員の退職後の『生活不安解消のヒントにしていただければ幸いです。

退職給付制度の現状について

退職金の受け取り方法
退職金といえば、退職後に「まとまった金額が振り込まれる」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、企業の退職給付制度には、退職給付制度は一時金だけではなくいくつかの制度が混在しています。

退職金制度を設けている企業の受取り方法についての調査(※1)では、

1.退職金制度のみ(一括受取り)・・・73.3%
2.退職年金制度のみ(年金払受取り)・・・8.6%
3.退職金と年金制度の併用(一時金と年金を分割して受取り)・・・18.1%
4.退職給付制度を設けていない・・・19.5%

退職給付制度の現状は、一時金として一括支払いする企業が73.3%と多くを占めているようですが、この傾向は従業員数により大きく異なっています。

従業員数1,000人以上の企業では、「退職一時金のみ」の企業の占める割合は27.6%と少数に止まり、「一時金と年金受取の併用」は47.6%となっており、半数近い企業において一時金と年金の受け取り方法・金額を退職者が選択できる制度になっているようです。

その一方で、従業員数が少なくなるにつれて「一時金のみ」の割合が上昇し30~99人の企業規模においては82.1%にまで上昇します。
退職給付制度は、「後払い賃金」や「永年勤続奨励」という意味合いの強い制度ですが、その制度自体が存在しない企業もありますので、まずはお勤め先の退職給付制度を確認しておきましょう。

企業年金の種別

退職給付金には、企業が定める退職金規定に基づく退職給付に加えて、企業が任意で加入する企業年金があります。

◆確定給付企業年金(規約型/基金型)
◆確定拠出年金(企業型)
◆厚生年金基金
◆退職年金給付
◆中小企業退職金共済制度・特定退職金共済制度

企業年金は、「年金」という名称が用いられていますが、年金受取りに加えて一時金での受取りも選択可能です。

退職金の受け取り方法

退職給付の金額について

下記の数値は、定年退職者の退職制度別の受取額(※2)の調査結果です。

退職金の受け取り方法
退職金の受け取り方法
注)一時金のみの場合は退職一時金額、年金のみの場合は年金現価額、両制度併用の場合は退職一時金と年金現価額の合計金額


この調査によると、退職給付に関しては「永年勤続奨励」という意味合いが色濃く反映されているのが見て取れます。

退職給付を一括して受け取った場合の税負担について

退職給付を一括して受取る際に納める税金も勤続年数に応じて「税負担が軽減される」という仕組み(※3)になっています。

(退職金 ※1 -退職所得控除額 ※2)×50%=退職所得の源泉徴収税額の速算表に応じた税額

※1 退職金の源泉徴収される前の金額 ※2 退職所得控除額の計算

退職金の受け取り方法
●勤続12年の会社員が1,500万円の退職金を受取る場合の納税金額は、

(1,500万円-40万円×12年)×50%=510万円・・・課税退職所得金額
(510万円×20%-427,500円)×102.1%=604,940円・・・退職金の税額


●勤続35年の会社員が1,500万円の退職金を受取る場合の納税金額は、

1,500万円-((800万円+70万円×(35年-20年))×50%=0万円・・・課税退職所得金額 
勤続35年の上記例題では、退職所得がゼロとなり算出されないため退職金にかかる税負担はありません。

退職給付を年金で受取る場合の税負担について

退職給付を年金受取する場合にも「公的年金控除 ※4」という制度があり、公的な老齢年金と合算が可能で給与等の課税方法よりも優遇される仕組みになっています。

退職金の受け取り方法
例えば、
・前提条件:退職給付1,500万円、公的年金受給額(65歳以降)100万円/年、年金給付利率1.5%、10年確定年金、その他の収入はない場合
・退職給付1,500万円を全額年金受取にした場合の年金額=約162万円/年
・公的年金100万円に退職給付162万円を加えた年金合計額に対する所得税=52,000円/年(注)
(注)公的年金控除110万円、基礎控除48万円、所得税率5%、その他の控除はないとして試算


以上、前編はここまでです。
次回、後編「一時金or年金?退職給付の受け取り方法は?」をお楽しみに。


※1 厚生労働省:平成30年就労条件総合調査「第17表 退職給付(一時金・年金)制度の有無」より

※2 厚生労働省:平成30年就労条件総合調査「第24表退職給付(一時金・年金)制度の形態別定年退職者1人平均退職給付額(勤続年数20年以上かつ45歳以上の定年退職者)

※3 国税庁:タックスアンサー「№1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」

※4 国税庁:タックスアンサー「№1600 公的年金等の課税関係」

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このコラムを書いた人

石村 衛(いしむら まもる)講師
石村 衛(いしむら まもる)講師

【経歴】
FP事務所 ライフパートナーオフィス 代表
東京都金融広報委員会 金融広報アドバイザー
株式会社セゾンパーソナルプラス 契約講師

【資格】
ファイナンシャルプランニング1級技能士
日本FP協会 CFP(R)

大手食品メーカーにて、全国にまたがる流通卸や大手小売企業の営業を担当。その後、社内管理部門やマーケット開発部門、東京広域支店支店長を務める。
2001年 FP事務所ライフパートナーオフィスを開設、代表就任。相談業務をおこなうと共に若手・ベテラン、退職予定者向け等に向けた「ライフプラン講座」などの官公庁や企業研修講師を多数務め、その他「金融経済教育」をテーマにした小・中・高校・大学・専門学校における出前授業やイベント、保護者向けの教育資金講座やお金と生活のかかわりに関する講座などを幅広く手掛け、年間100件以上(2019年実績)を務める。ちびっ子からシニア層まで幅広く対応しており、「中立・公正」、「わかりやすさ」をモットーにリピートでご依頼いただくケースが多い。
著書に「お金ってなんだろう?~子どもに伝えたい大切なこと~」(PHP研究所)他


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