第13回 その生命保険本当に必要?!【医療保険編】 Author:石村 衛

2021年9月22日|カテゴリー「石村先生と考える“心豊かな人生100年時代”
医療保険
保険という仕組みは、加入者同士で「困ったとき」の金銭面での助け合いをする仕組みです。
「お金を受け取ることを期待して加入する」という考え方には馴染み難く、支払い困難などの財布の「痛みを和らげる必要があるか?否か?」という視点で検討しましょう。

保険加入に際しては、不安な気持ちに駆られてしまい保険商品のメリットばかりに気を取られ注意点については関心が希薄になり、セールストーク説明を受けて「わかったつもり」あるいは「その時は理解したつもり」という状況に陥りやすく、実は「よくわかっていない」というケースは珍しいことではありません。

同様に「保険はよくわからない」という声も耳にしますが、保険で後悔しないコツは「わかったつもり」にならず、加入目的に照らし合わせて「納得するまで何度でも」質問をする。
あるいは、保険の販売に関わっていないファイナンシャルプランナーなど保険のセカンドオピニオンに意見を求めて参考にすると良いでしょう。
間違っても申込書に「ここはこう書いて」、「ここに〇印や✓をして」といった具合に言われるままに記入・サイン・押印をするのは避けましょう。
医療保険の保障について、保険料の高い・安いではなく、金銭的な保障が必要かどうかで判断することが大切です。

「新型コロナ対応の医療保険」
「ガン(三大成人病等)に手厚い保障」
「お手頃(割安)な保険料」
「持病があっても申し込める」
「掛け捨てではありません」
「一生涯の保障」
「健康お祝い金が受け取れる」
「医師の審査はありません」
「○○歳まで申し込めます」
「保障の追加可能(無駄がない)」

上記のキャッチコピーは、保険会社の商品広告で見かける文言です。
一つ一つの文言は商品の特徴を示していることに相違はないと思いますが、それぞれのキャッチコピーはその保険商品の加入条件に合致した場合に適用される文言です。

例えば、「シニアの方も申込める」、「医師の審査が不要」という医療保険が存在していると仮定します。
この場合の前提条件は、「申し込み」と「加入」とは似て非なることを知る必要があり、申し込むだけならば誰でもできる反面、保険会社は申し込みをすべて引き受けるわけではなく、健康診査などの一定基準に基づいて「お引き受けできなこともあります」という契約内容です。

同様に「医師の審査が不要」というキャッチコピーの場合には、医師の審査は不要でも告知書による健康診査は必須です。
中には、「持病があっても云々」という医療保険もありますが、この場合には、保険料が割り増されている等のことが、パンフレット等の片隅に小さく記述されています。

このようにたくさんの人の関心を引き、多数の問い合わせを集めることが広告の役目とはいえ、問い合わせる際には保険を利用して保障が「必要か?」を慎重に見極めましょう。

備える方法を理解

医療保険

自分で備える

病気やケガに備えるという観点では、まずは健康管理が大切であることは言うまでもないことだと思います。
その上で、預貯金等の金融資産を使って医療費を支払う方法が「自分で備える」という方法です。

発熱や腹痛、切り傷程度の軽症の場合にかかる通院医療費の自己負担額は、家計に重大な影響を与えるほどの金額になることは稀で少額に止まる場合が多く、日常生活費や預貯金で対応する場合が圧倒的多数であると思います。
「当たり前」とのご批判はもっともですが、入院医療費となると「何十万円と高額になるのではないか?」という懸念は先行してしまい、意外と「自分で備える」ということを忘れている場合があるようです。
預貯金での対応が可能かどうかを検討してみるのが、最初のステップとなります。

社会全体で備える

預貯金等ではとても対応できそうもない高額な治療費等に対し、いつ何時に高額な治療費等が必要となる事態が起こるのかは予測不能であるため、「保険に入っておかなくては!」という不安解消策に至りやすくなりがちです。
その前に医療については、誰もが加入している社会保険と呼ばれる「社会全体で備える仕組み」が用意されており、その仕組みを理解しておくことが大切です。

この社会保険のうち医療を担う役割は、公的医療保険と呼ばれ健康保険(組合健保、協会けんぽ、他)、国民健康保険、後期高齢者医療制度に分類されています。
公的医療保険では、各々の健康保険等とも共通の仕組みとして病気やケガの治療費等の医療費負担を軽減させる仕組みがあり、かかった医療費の3割負担が原則となっています。
未就学児は原則2割ですが自治体によっては一定年齢に達するまでの医療費は無料または低額負担となる場合が多く、75歳以上の高齢者負担は原則1割となりますがその方の所得や年齢などにより、負担割合は異なります。
原則となる3割で例えば、1万円の医療費がかかったとすると、本人が3割の3,000円をクリニック等の窓口で支払い、残りの7割である7,000円は公的医療保険が負担することは、ほとんどの方がご理解されていると思います、

この公的医療保険は、上記の自己負担割合に加えて「高額療養費制度」という極めて優れた制度が設けられています。
この制度は公的医療保険の加入者とその扶養家族が対象となり、健康保険証を所持している方は、もれなくこの制度を利用することができます。
この高額療養費制度は、公的医療保険が適用される診察・検査・処置・投薬、注射・入院費・その他費用に対して本人負担分(原則3割)を一旦病院等の窓口で支払った上で、加入している公的医療保険に高額療養費の請求手続きをします。
この請求手続きをすることでその方の自己負担限度額に応じ、限度額を超えた医療費は、後日に加入している公的医療保険から「キャッシュバックされる」というものです。
自己負担限度額は、高所得者から低所得者まで5段階に区分され、該当する区分に応じて一定限度額に止まるよう本人負担の軽減を図る仕組みです。

医療保険


医療保険
例えば、70歳未満の3割負担の方で適用区分が年収約370~約770万円では、

☆入院1か月間の医療費が300万円の場合
80,100円+(医療費300万円-267,000円)×1%=107,430円・・・自己負担限度額
となります。
 
この例では、300万円の3割=90万円を一旦病院に支払い、加入している公的医療保険に高額医療制度の請求手続きをおこなうことで、限度額を超えた金額(90万円-107,430円=792,570円)は後日キャッシュバックされることにより、実質的な自己負担は107,430円となります。(後述の限度額適用認定証を事前に病院に提出しておけば、対象月に病院からの入院医療費のみ分請求は限度額の107,430円となる)

☆入院1か月間の医療費が1,000万円の場合
80,100円+(医療費1,000万円-267,000円)×1%=177,430円・・・自己負担限度額

1,000万円という途方もない金額の医療費がかかっても、3割の300万円を病院に一旦支払うことになりますが、限度額(177,430円)を超えているため請求手続き後に2,822,570円はキャッシュバックされることになり、実質の自己負担は177,430円となります。(後述の限度額適用認定証を事前に病院に提出しておけば、177,430円が請求される)

さらに事前に限度額適用認定証という仕組みや世帯合算という仕組み、多数回該当という負担軽減策も利用できます。

高額療養費制度(負担軽減の仕組み)

事前に月初から月末までの間、入院治療費等が高額になると予測される場合には、加入している健康保険に「限度額適用認定証」を請求・取得して病院へ提出しておくと、入院等の1か月間に掛かった治療・投薬費等は限度額を超えても、負担の上限額が請求され自己負担が軽減される。

過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から「多数回該当」となり、上限額が概ね半減する。
例)年収約370万円~770万円(70歳以上・70歳未満とも)の自己負担は『44,400円』に減額。


その他、医療に等の負担軽減のためには、一定の要件に該当すれば同一世帯の医療費などを合算する「世帯合算」や介護保険利用者に対する「高額介護合算療養費制度」がある。

高額療養費制度の詳細は、下記の参考リンクでご確認ください。
【参考】高額療養費制度:厚労省「高額療養費制度を利用する皆様へ」

仲間で備える

生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」によると医療保険・医療特約の世帯加入率は88.5%となっています。
年代別には70歳以降の年代こそ90%を割り込むものの、50~54歳の世代における95.1%を最高に各世代とも軒並み90%を超える世帯加入率となっています。

このように民間の医療保険は大人気といえる金融商品だと思います。
金融商品として人気があっても、「備え」に対する必要性が不明確な状態で加入していると意図せずに「保険料の垂れ流し」が起こってしまっている可能性があるかもしれません。

仲間で備える⇒任意加入の民間の医療保険は、「1日入院するといくら」といった入院給付が主流となっています。
そもそも民間の医療保険は、入院した時に治療費、処置、投薬費、その他の医療費が、支払えなくなる事態に備えて加入するケースが加入目的のナンバーワンです。
この目的を鑑みると「医療費の支払い」について、まずは最初のステップでは自分で備えたお金を使い、セカンドステップに社会全体で備える仕組みで一定の歯止めをかけ、最終ステップとして入院医療費の不足分に限って、民間の医療保険を検討すると良いと思います。

民間の医療保険

1.差額ベッド代

医療保険のチラシ等には、高額療養費制度で賄えない医療費として「差額ベッド代」が挙げられ、それが高額であり「支払が大変!」という印象を受けやすい記述が見受けらます。
チラシ等の記載の通り差額ベッド代は、希望して利用すると高額療養費制度の適用外ですので自己負担となります。その意味では高額な費用が発生することは間違いではありません。

ここで注意しなければならないのは、差額ベッドは「患者が快適な環境を望む場合に限って利用する」もので、ドクターの判断で治療が必要、あるいは感染症など特殊な場合などで個室等に収容される場合には差額ベッド代は請求できない決まり(※)です。

※厚労省:保医発0305第5号 令和2年3月5日
12 特別の療養環境の提供に係る基準に関する事項
(前略)
(6) 特別の療養環境の提供は、患者への十分な情報提供を行い、患者の自由な選択と同意に基づいて行われる必要があり、患者の意に反して特別療養環境室に入院させられることのないようにしなければならないこと。
(中略)
(8) 患者に特別療養環境室に係る特別の料金を求めてはならない場合
①同意の確認を行っていない場合(当該同意書が、室料の記載がない、患者 側の署名がない等内容が不十分である場合を含む。)
② 患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室へ入院させる場合
③ 病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院させた場合であって、実質的に患者の選択によらない場合(後略)

このように個室や二人部屋等にかかる差額ベッドはあくまでも任意であり、差額ベッド代は本人・または家族等が追加負担を容認し、快適な治療・療養病室を望む場合に限られます。

例えるならば、国際線のファーストクラスが病院における個室であり、ビジネスクラスが二人部屋と考えるとわかりやすいかもしれません。
毎月、医療保険の保険料を毎月支払ってまで、アップグレードを「望むか?否か?」ということだと思います。
そもそも国際線のファーストクラスを利用する方は、経済的に余裕のある方や会社の必要経費として利用が認められる方が多いと思います。
入院時の病室の選択については、「民間医療保険の入院給付金で差額ベッド代を賄う」という考え方は馴染みにくいのではないでしょうか。

高額療養費の対象とならないものには、差額ベッド代以外にも給食費、患者が申込む部屋着、おむつやガーゼなどの衛生用品、その他細々とした自己負担は避けられません。
とはいえ、これらの費用は、「自分で備える」ためのお金を使うと良いでしょう。
あるいはこの程度であれば日常の生活費から拠出可能な範囲にとどまるケースが多く、ことさらに医療保険の入院給付をあてにして補填してもらう必然性は高くない方が多いのではないでしょうか。


高額療養費制度の詳細は、下記の参考リンクでご確認ください。
【参考】高額療養費制度:厚労省「高額療養費制度を利用する皆様へ」

2.長期入院に対する備え

厚労省「平成29年患者調査」によると傷病別に平均在院日数は大きく異なりますが、総数の平均では29,3日でした。過去に比べると在院日数は年々短縮しています。

そもそもの「医療費が不足する事態の回避」という加入目的を勘案すると、入院期間が長期化すればするほど、自己負担の増大は避けられません。
「社会全体で備える」枠組みにも限界があるため、民間の医療保険に期待する役割は長期入院だと思います。

民間の医療保険は、入院日数に応じて給付金が支払われるタイプが主流ですので、入院日数は給付金の受取額を左右する重要ポイントとなります。
民間の医療保険は、1回の入院限度日数は60日限度が主流になっており、保険会社によっては120日という医療保険も散見されますが、限度日数を長くすればするほど負担する保険料は高額となります。
民間の医療保険の60日の支払限度日数は、入院による平均在院日数が29.3日程度に収まるのであれば、一定の合理性があると思います。

その一方で、平均在院日数よりも入院期間が多少伸びてしまう可能性も否定できず、長期入院となれば医療費は「負担が重くなりかねない」という事態に備えて、毎月の保険料負担が増しても1回の入院限度日数が長い商品を選択する余地もあると思います。
これを機会にご自身が「加入している」あるいは「加入を検討する」民間の医療保険の1回の入院限度日数を確認してみましょう。


平均在院日数の詳細は、下記の参考リンクでご確認ください。
【参考】厚労省:「平成29年患者調査」

3.短期入院に対する備え

過去の医療保険では、「入院5日目から入院給付金を支払う」といった内容が主流でした。
ところが、近年「1泊2日の短期入院に対応」というセールスポイントを謳う民間の医療保険が登場し、いまでは「日帰り入院にも対応」という商品も登場しました。
短期入院の場合、「医療費支払い困難な事態に陥る」という観点では、疑問があります。
なぜならば、仮に入院給付金としては多めの日額1万円が支払われる民間の医療保険に加入していると仮定しましょう。
1万円/日×2日の2万円を民間の医療保険から受け取らないと「支払い困難に陥る」という懸念がある方は、「相当困窮されている」と推察されます。

短期入院に対する保障は「自分で備える」範囲で賄えられる方が圧倒的多数ではないでしょうか。
短期入院保障に対する保険料は、月の保険料換算で数百円程度と僅かに止まるとはいえ、無料ではありません。
安心料と言える程度かもしれませんが安心を得るためにはお金がかかることは理解したいものです。

4.入院給付金の限度額

加入している医療保険の入院給付が1万円/日に加入していると仮定します。
1回の限度日数60日であるとすれば、1万円×60日=60万円が一つの入院事由による入院給付金の限度額となります。
言い換えれば、毎月の保険料を支払わずにその保険料を貯蓄して60万円を「自分で備える」と貯め、その60万円は生涯入院費にしか使わないとできれば、「医療保険は不要」という見方もでき、給付金額×限度日数の預貯金を用意さえすれば、民間の医療保険に入っていると同額の保障が「備えられている状態」といえます。

改めて、現状において入院給付金を受け取らないと医療費の支払いが難しい事態に陥ってしまう可能性が高いのであれば、躊躇わずに民間の医療保険に加入しましょう。

5.通算入院限度日数

例えば、一定の要件のもとで「1回の入院制限60日、通算1,000日まで保障」といった商品があったとします。
1,000日保障があれば、1万円×1,000日=最大1,000万円の保障と早合点しないようにしてください。
前述の通り、民間の医療保険には1回の入院限度日数が設けられているため、上記の例で最高額の保障を獲得するためには1,000日÷60日=16回を超える60日の入院をする計算となることを理解しましょう。

16回の意味は、最長の60日間の入退院を16回繰り返して初めて実現することになり、常識的には60日を超える入院を16回も繰り返す強靭が患者は「どのくらい存在するのだろう」と俄かには信じがたい回数と言えるでしょう。
ということは、通算入院限度日数は加入の可否判断に大きな影響は及ぼさないと思います。

6.先進医療特約

先進医療とは、将来的な公的医療保険適用に向けて評価を行うために、未だ保険診療の対象に至らない先進的な医療技術等と保険診療との併用が認められたものです。
先進医療は、健康保険法等で定められており、令和3年8月1日現在、先端医療A(24種類・249か所の病院)と先端医療B(60種類・561か所の病院)が指定されています。
その特徴は、先端医療にかかわる費用は全額自己負担となり、通常の治療等と共通する部分は公的な医療保険の対象となります。

総医療費が100万円、うち先進医療に係る費用が20万円だったケース
1.先進医療に係る費用20万円は、全額を患者が負担します。
2.通常の治療と共通する部分(診察、検査、投薬、入院料 ※)は、保険として給付される部分になります。
※保険給付に係る本人負担については、高額療養費制度が適用されます。

公的健康保険適用分=80万円(10割)
7割にあたる56万円が各健康保険制度から給付。
3割にあたる24万円が患者の一部負担金。

上記の例では、先進医療にかかわる部分の20万円と3割の本人負担部分の24万円を加えて44万円が自己負担額となりますが、本人負担部分に対して高額療養費制度の適用ができるため、年収約370万円~約770万円の区分の場合で実質の自己負担は85,430円になり、20万円+85,430円=285,430円が自己負担額になります。

医療保険
先進医療の詳細は、下記の参考リンクでご確認ください。
【参考】:厚労省「先進医療の概要について」


近年、医療保険などの特約として、人気化しているのが先進医療特約です。
先進医療部分に関わる費用は、数十万円から1,000万円を超える場合も皆無ではありません。
そのため、患者の自己負担額も多額になる恐れがあるため、民間の医療保険やがん保険の特約として「備えられる」と人気化しているのが現状のようです。

一方、先進医療の対象となる治療や検査は、常に見直され効果等の検証を受けて公的医療保険の対象となって除外される場合や効果不十分等の理由で対象から除外される場合もあり、都度入れ替わる仕組みとなっています。

先進医療は、将来の評価のためのテスト的な意味合いがあるため、どこの病院でも実施されている訳ではなく、先進医療を受けようとする場合、全国1か所~多くても十数ヶ所に止まります。

民間の医療保険などに付加される先進医療特約は、先進医療にかかる費用を全額実費保障するものです。
保険会社により保障額は異なりますが、最高2,000万円といった高額な実費保障が主流です。
この先進医療特約部分の保険料は、概ね百数十円/月程度と驚くほど安価に設定されています。
ひとたび治療・検査などを受けると高額になるにもかかわらず、安価な保険料なのには理由があります。
先進医療は、先進医療Aで24種類、先進医療Bも60種類と非常に限定されています。そのため、この治療を受ける患者は極少数に止まらざるを得ず、保険会社にとっては、保険給付金の支払い機会も極少数に止まるため、安価な保険料でも十分に保険特約として成り立つのです。裏を返せば、先進医療特約の給付金を受けられる患者はとても「幸運な存在?」と言えるでしょう。

その一方で、保険の加入目的である「金銭面で保障」という観点でみると、この先進医療特約は安価な保険料負担で、高額の自己負担になる恐れのある先進医療の費用の実費が保障されるのは、有効なリスク回避手段だと思います。
加入している医療保険等があれば、特約を確認してみましょう。
もしこの特約が未加入であれば、加入している保険会社に先進医療特約の追加の可否を問い合わせてみると良いと思います。

7.民間の医療保険加入のポイント

・医療費として「いざ、その時に出せる」預貯金はどのくらいある?
・高額療養費の仕組みを理解しているか?
・入院給付金は、支払不足懸念のある必要な保障範囲に止まっているのか?
・内容を理解していない等、不要な特約保障は付加されていないか?
・入院給付金の1入院上限額はいくらか?
(例えば入院限度日数60日で給付金5,000円/日では上限額30万円)
・支払保険料の予定払込総額は?
(保険料×保険料払込回数=支払保険料総額)
・支払保険料総額以上に入院給付金などを受け取れる可能性は?

「仲間で備える」という民間の医療保険は、加入から契約満了までの期間、支払う保険料を超える金額を入院給付金などで受け取れる可能性は低いのが常のようです。
そのため、高額療養費の限度額を蓄えるまで不足している期間の「時間稼ぎために加入する」という考え方が合理的だと思います。

ちなみに高額療養費制度は、公的医療保険適用の治療や投薬等を受ける場合には、すべての治療、投薬などが対象となります。
ガンや心臓病・脳疾患など特定疾病に対する除外規定は存在しません。
冷静に考えれば、特定疾病に限って給付金を上乗せするガン保険や三大成人病特約、女性疾病特約などは「あったほうが安心?」という典型例と言えます。

ガン保険と備え

ガンという病は、近年医療の進歩によって不治の病ではなく「治る病」となりつつあるものの、日本人の死因トップで27.3%の方がガンで亡くなっています。
このことは紛れもない事実であり、不安になるのは当然だと思います。


また、「遺伝しやすいガン」の存在も囁かれ、ご家族の中に「ガンを発症した」という経験をお持ちの方にとって、不安は尽きません。

そこで登場するのが「がん保険」です。ガン保険は、入院給付を主体とした民間の医療保険と比べると入院給付に止まらず「がんと診断」されただけで支払われる診断給付金やがん治療に関わる手術給付・放射線治療給付・通院給付金など様々な給付金が付加され「手厚い保障」が売り文句で保障の充実について各社競い合っているのが現状のようです。

ガン保険の選択については、保障範囲を知ることも重要かもしれませんが、何より重要なのは、ガンの治療に対する「自己負担がどのくらいになるのか?」を知ることが大切です。

日本人の死因については、下記の参考リンクで確認してください。
【参考】厚労省:令和元年人口動態統計の概況第6表

ガンの治療費

- 治療費 (1入院当り) 自己負担3割
胃の悪性新生物<腫瘍> ¥650,555 ¥195,166
結腸の悪性新生物<腫瘍> ¥654,049 ¥196,215
直腸S状結腸移行部及び直腸の悪性新生物<腫瘍> ¥753,745 ¥226,123
肝及び肝内胆管の悪性新生物<腫瘍> ¥621,937 ¥186,581
気管,気管支及び肺の悪性新生物<腫瘍> ¥701,623 ¥210,487
乳房の悪性新生物<腫瘍> ¥586,020 ¥175,806
子宮の悪性新生物<腫瘍> ¥641,088 ¥192,326
悪性リンパ腫 ¥970,096 ¥291,029
白血病 ¥1,596,183 ¥478,855
その他の悪性新生物<腫瘍> ¥653,790 ¥196,137
良性新生物<腫瘍>及びその他の新生物<腫瘍> ¥562,691 ¥168,807
- 治療費 自己負担3割
胃の悪性新生物<腫瘍> ¥40,186 ¥12,056
結腸の悪性新生物<腫瘍> ¥44,364 ¥13,309
直腸S状結腸移行部及び直腸の悪性新生物<腫瘍> ¥61,290 ¥18,387
肝及び肝内胆管の悪性新生物<腫瘍> ¥44,823 ¥13,447
気管,気管支及び肺の悪性新生物<腫瘍> ¥106,745 ¥32,023
乳房の悪性新生物<腫瘍> ¥57,632 ¥17,290
子宮の悪性新生物<腫瘍> ¥30,399 ¥9,120
悪性リンパ腫 ¥66,439 ¥19,932
白血病 ¥88,221 ¥26,466
その他の悪性新生物<腫瘍> ¥62,790 ¥18,837
良性新生物<腫瘍>及びその他の新生物<腫瘍> ¥19,537 ¥5,861
厚労省:令和元年度「医療給付実態調査」統計表 第三表 疾病分類別、診療種類別、制度別 件数・日数(回数)・点数(金額)をもとに、総費用(1点10円)をがんの分類ごとに件数で割って1件あたりの費用を算出

上記は、1回の入院・1回の治療ごとの費用を記載しました。
ガンの部位などにより自己負担となる医療費(3割の場合)は、入院の場合で20万円程度から50万円程度、通院の場合で1万円程度から3万円を超えた程度の金額がかかっているようです。「がんの治療費はお金がかかる」という懸念は、間違いではなさそうです。

とはいっても75歳を超え後期高齢者医療制度に加入するようになると、上記リストの自己負担額は1割となるため、自己負担は記載金額よりさらに1/3に負担は軽減されます。

 ガン保険などの特定疾病を保障する保険に関して、高額療養費制度には「がん等の特定疾病に対する治療は対象外」という規定は存在しておらず、ガン等による入院・通院に伴う治療に限度額が適用され一定程度の負担が軽減されます。

がん治療等の特定疾病については命に係わる場合もあり、数ヶ月という期間にわたり治療が続くケースも散見されますが、高額療養費制度では過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合に4回目から上限額がさらに引き下がる「多数回該当」という仕組みもあります。


ガンの治療費については、下記の参考リンクで確認してください。
【参考】厚労省:令和元年度「医療給付実態調査」統計表 第三表 疾病分類別、診療種類別、制度別 件数・日数(回数)・点数(金額)
をもとに、総費用(1点10円)をがんの分類ごとに件数で割って1件あたりの費用を算出。


高額療養費制度の多数該当についての詳細は、下記の参考リンクでご確認ください。
【参考】高額療養費制度:厚労省「高額療養費制度を利用する皆様へ」

・がん発症月1か月間の総治療費 200万円(自己負担60万円)
自己負担額:97,430円

・2か月目の月2回通院・投薬の総治療費 30万円(自己負担9万円)
自己負担額:80,430円

・3か月目の通院・投薬費 30万円(自己負担9万円)
自己負担額:80,430円

・4か月目の通院・投薬費 30万円(自己負担9万円)
自己負担額:44,400円

上記の例では、4か月間の総治療費は290万円で自己負担額(3割)は87万円に達する計算となりますが、高額療養費制度の適用を受けて実質の自己負担額は302,690円に止まります。
加えて給食費やその他の雑費、通院すれば交通費などもかかりますが、一定の負担に止まることは間違いなさそうです。

とはいえ、数十万円単位の医療費を負担する可能性がある以上、不安は増すばかりだと思います。まずは、「自分で備える」という観点で医療費専用の貯蓄を心掛けるとともに、入院に対しては入院理由の如何を問わず対応している民間の医療保険が役に立つでしょう。その際には、先進医療特約を付加することも検討できると思います。

通院に際しては、1か月に1回~複数回通院治療を受けるケースもあります。
さらに治療のため「働けない等」仕事に一定の制約を受けてしまい兼ねず、収入減少の可能性も否定できません。

このように高額療養費制度によって負担する医療費には一定の歯止めがかかるものの、ご家庭によっては軽視できない金額に達する可能性も秘めています。
自己資金の充実を第一順位として備えつつ、自己資金が充実できるまでの時間稼ぎとして最小限度の医療保険に加入に加えて、どうしても心配な場合にはお守り程度にガン保険を検討すると良いでしょう。

シニアの医療保険と備え

シニアの医療保険と備え
シニアになると過去の病歴があるため、民間の医療保険に「入りたくても入れない」というケースが散見されます。
そのニーズに対応して民間の「入りやすい医療保険(引受基準緩和型・限定告知型)」というタイプの商品が存在しています。

この商品は、持病や過去に病歴があっても「加入しやすい」のが特徴です。
申込は「80歳まで」といった具合に保険会社によっては異なるものの、比較的高年齢まで申し込み可能となっています。入りやすくなっている分、保険料は割増されていますが、保障は終身タイプが主流で一度加入すると生涯にわたり保障が続くので一定の需要があるようです。

例えば、76歳男性が、入院給付金5,000円 終身保障 保険料終身払い 月額保険料8,000円という医療保険に加入したとしましょう。
仮に82歳までの保険料払い込み総額を計算すると8,000円×12か月×6年間≒58万円となり、終身払いのため82歳以降も存命であれば支払保険料負担は膨らみ続けます。
82歳までに支払った保険料を入院給付金だけで受け取ると仮定した場合のケースを試算してみましょう。
この試算では、58万円÷5,000円=116日の入院が必要となります。
民間医療保険に多い1回の入院限度日数が60日とした場合は、76歳から82歳までの6年間という期間に長期入院を複数回繰り返さないと支払保険料を給付金で受け取ることはできません。

同様に、上記の契約の入院給付金限度額は、5,000円×60日=30万円が受取期待金額の最高値となり、とりあえず30万円の預貯金等があれば無理に民間の医療保険の加入は不要という考え方もできそうです。
民間の医療保険は、入院給付金に加えて手術給付特約も付加されているケースが多いため、一概に元を取るために必要な日数計算は意味がないとはいえ、一定の物差しとして使えるはずです。

年齢とともに増加する医療・介護費?

医療保険
高齢者の医療費は、加齢とともに衰え医療費が「重くのしかかる」と懸念される方も多いと思います。
ところが、総務省:家計調査によると現状では後期高齢者医療制度の恩恵もあり一定の歯止めがかかっています。
今後、政府の財政事情などに起因した制度改正による医療費の自己負担増加懸念は否定しませんが、現状では必要以上の心配は保険料の無駄使いになり兼ねません。

シニア世代の方が、数万円~数十万円の「医療費が支払えない」という心配がある場合、順番としては公的医療保険の自己負担割合の確認、高額療養費の適用区分の確認、手元資金の「自分で備えるお金」を把握、その上で支払い困難な状況が発生する心配があれば、民間の医療保険の出番となります。
その場合、まずは全世代向けの医療保険に申し込んでみて健康診査で加入ができない場合に、入りやすいタイプのシニア向け保険を検討するという手順が良いでしょう。

入りやすいシニア向け医療保険といっても公的な医療保険とは異なり、誰でも無条件で入れるわけではなく、過去数年間で「入院や手術等を受けている」などの健康告知内容によっては加入できない場合もあります。

生命保険は必要?

生命保険
保険は助け合いです。
遺族年金と残された財産だけでは、遺族の生活資金不足の懸念がある方にとって死亡保険は万が一の備えになります。
貯蓄と公的医療保険だけでは医療費の不足が懸念される方は、民間の医療保険は欠かせません。
支払った保険料は、自分に何事も無ければ、保険金・給付金の支払い事由に該当された他の加入者の方に一部を差し上げることになります。
その一方で、加入者である自分が亡くなって遺族に死亡保険金が支払われる、あるいは入院などで給付金の支払い事由に該当するときには、多数の他の加入者が支払った保険料の一部を頂戴します。

死亡保険・医療保険に限らず保険全般においては、助け合いという要因に加えて保険会社の経費要因も重なり、支払った以上の給付金を受け取るのは難しくなります。

払込保険料総額と受取保険金・給付金を勘案しながら、
死亡保険金・入院給付金等がないと
「誰が?」
「いつまで?」
「困るのか?」

困るのであれば、
「困るのは金銭か?」
「その金額はいくら無いと困るのか?」
を考えて生命保険(死亡保険・医療保険)の必要性について検討しましょう。


(文中の例題は、説明用に簡略化しており、文中の民間の医療保険等の保障内容や保険料等は実際の保険料とは異なります。保障内容や保険料などについては各保険会社に確認してください。)

シニア社員・ベテラン社員向け研修

シニア社員・ベテラン社員向け研修
人生100時代に向けて・・・
シニア社員・ベテラン社員を戦略的に活用、活躍を支援することにより、企業の成長につなげます。


「仕事を続けるためのライフプラン」「仕事で活躍し続けるためのビジネススキル」からご要望に応じた内容をカスタマイズすることができます。

JBMでは、上記以外の研修も柔軟に対応させていただきます。
ご質問やお見積りにつきまして、お気軽にお問い合わせくださいませ。

このコラムを書いた人

石村 衛(いしむら まもる)講師
石村 衛(いしむら まもる)講師

【経歴】
FP事務所 ライフパートナーオフィス 代表
東京都金融広報委員会 金融広報アドバイザー
株式会社セゾンパーソナルプラス 契約講師

【資格】
ファイナンシャルプランニング1級技能士
日本FP協会 CFP(R)

大手食品メーカーにて、全国にまたがる流通卸や大手小売企業の営業を担当。その後、社内管理部門やマーケット開発部門、東京広域支店支店長を務める。
2001年 FP事務所ライフパートナーオフィスを開設、代表就任。相談業務をおこなうと共に若手・ベテラン、退職予定者向け等に向けた「ライフプラン講座」などの官公庁や企業研修講師を多数務め、その他「金融経済教育」をテーマにした小・中・高校・大学・専門学校における出前授業やイベント、保護者向けの教育資金講座やお金と生活のかかわりに関する講座などを幅広く手掛け、年間100件以上(2019年実績)を務める。ちびっ子からシニア層まで幅広く対応しており、「中立・公正」、「わかりやすさ」をモットーにリピートでご依頼いただくケースが多い。
著書に「お金ってなんだろう?~子どもに伝えたい大切なこと~」(PHP研究所)他


≪主な研修実績≫
ライフプラン/金融リテラシー/キャリア育成/確定拠出年金/金融商品販売者・購入者/入社前/新入社員/若手社員/中堅社員/退職予定者
コンクール指導
消費者教育の推進に関する法律 第14条3 対応研修

≪主な実績企業≫
官公庁/地方自治体/大手金融機関/信用金庫/保険代理店/商工会議所/法人会/公益社団法人/一般社団法人/大手製薬会社/部品加工会社/私立大学/公立学校 その他多数

お問い合わせ


※お電話の場合は「06-6356-8522」までお問い合わせください
トップへ戻る