第14回 シニア社員の不安解消が、モチベーションアップにつながるか? Author:石村 衛

2021年11月8日|カテゴリー「石村先生と考える“心豊かな人生100年時代”
シニア社員の不安解消が、モチベーションアップにつながるか?
「不安」という心理には、「モチベーション」という向上心を後退させてしまうようです。
不安心理というものは、「いつの時代も」、「誰でも」、「いくつになっても」、「どのような状況下でも」完全に払しょくされることはありません。
そのため、「不安と向上心」との関係は「裏と表」と言えるでしょう。

シニア社員の老後資金不安

内閣府が行った国民生活に関する世論調査(令和元年)によると「日常生活の悩みや不安を感じていること(n=3,469人)」

1.老後の生活設計について 56.7%
2.自分の健康について 54.2%
3.家族の健康について 42.4%
4.現在の収入や資産について 35.2%

以下「家族・自分の生活上の問題について」、「勤務先での仕事や人間関係について」等の生活上の問題や人間関係が悩み・不安と感じているようです。
過半以上の方々が不安に思う老後の生活設計は、シニアに差し掛かると身近に差し迫る切実な問題となります。
書く言う筆者もシニア世代に突入し、老後の生活についてこれまではあまり感じたことのなかった不安を感じるようになりました。

同調査の「今後の生活の見通し(n=5,492人)」では、「良くなっていく」という前向きな回答が、30歳代で23.5%であったものが、50歳台になると5.7%に激減し、「悪くなっていく」との悲観的な回答の比率は30歳代で12.2%、50歳台になると32.2%と年齢を重ねるにつれて不安心理が拡大してきます。

その原因の一端には、シニアに近づくにつれて「収入減少懸念」と「公的年金への不安」という要因が大きな影響を及ぼしていると考えられます。
そのため、不安心理がシニア社員の向上心を「阻害している」との仮説が成り立つと思います。

シニア社員の不安解消が、モチベーションアップにつながるか?
内閣府:「国民生活に関する世論調査(令和元年)の詳細は、下記の参考リンクでご確認ください。
図14-1悩みや不安の内容
図19-1今後の生活の見通し


「高齢化社会」に対応するように、事業主はシニア社員を戦力として「力を発揮してほしい」と考えるようになり、それに呼応するように2021年4月より施行された「改正高年齢者雇用安定法」により、シニア社員は希望すれば65歳以降も働く機会が得られやすくなりました。


改正高年齢者雇用安定法については、JBMコンサルタント:コラム「高年齢者雇用安定法が改正され、シニア社員の働き方はどう変わるの?」も参照ください。


ところが、現状に目を向けてみるとシニア社員の働き方は、50歳を過ぎたころから役職は外れる企業が少なからず存在しており、その上、60歳に到達すると一旦「定年退職」となる企業が多数を占めています。
定年退職後は、「有期の再雇用契約で働く」、あるいは60歳以降は「勤務延長制度を利用して働く」という働き方が主流になっており、シニア社員が活躍する場面はまだまだ限られています。

再雇用契約で働くにしても、勤務延長制度を利用してもそれまでの経験や技能が生かせる仕事につける保証があるわけではなく、その上、役職・その他の手当てカットや昇給の停止などに加えて、再雇用契約・勤務延長という働き方になると給料等の収入低下懸念があります。

このような不安を抱えたままのシニア社員は、定年退職前になると少なからず将来設計について葛藤することとなり、収入減少等の将来不安によって、働く意欲・やる気がしぼんでしまうことも無理なからぬことかもしれません。

シニア社員の不安解消が、モチベーションアップにつながるか?
内閣府:「国民生活に関する世論調査(令和元年)の詳細は、下記の参考リンクでご確認ください。
シニア社員のモチベーション維持・向上には、「お金のために働く」という働く目的のみならず、それ以外の目的を持って働ける職場環境を作ることが重要になってくるはずです。

シニア社員の不安解消が、モチベーションアップにつながるか?
働く目的に挙げられている項目にある「社会貢献」、「生きがい」という2つは、年代が上昇するにつれて徐々に働く目的意識が高まり、多数を占める「お金のため」が年代の上昇とともに減少しています。

すべての方に当てはまる調査結果ではないとはいえ、シニアに近づくにつれて意識変化を起こす方が増加し「お金のためだけに働く」のではなく、収入を得ながら「社会貢献」や「生きがい」というサブ目的を併せ持ち、老後の資金設計を「安定させる」という選択肢を選ぶ方も増えるのでしょう。
老後の資金設計が安定すれば、不安が緩和させる効果は期待できます。その結果、不安感が減少し仕事に対するモチベーションに対しても好影響が出やすくなると思います。

誤解の無いように補足させていただくと、働いた対価としてお金を得ることは否定する訳ではありません。
働く喜びを抱きつつお金以外も目的も併せ持ち、働いた結果として「お金が得られる」というのが良いと思います。

シニア社員の年金不安

シニア社員の不安解消が、モチベーションアップにつながるか?
厚生年金等の公的年金に対する不安・不信については、現時点において「持続可能で安心」とはいいがたいようです。
この公的年金については、少子高齢化の影響などで「制度の持続性に疑問がある」、過去の不祥事により「信用できない」など様々な思惑を持った立場の情報提供が横行し、「不安を煽る」という事態が多発しているようです。

2019年6月3日付けの金融庁:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 「高齢社会における資産形成・管理」が公表されるや否や

同報告書P21に記載されている文面
(前段省略)夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では 毎月の不足額の平均は約5万円であり、(途中略)不足額の総額は (途中略)2,000 万円になる。(後段省略)

という省略だらけの部分に着目して「老後資金が2,000万円不足する」とのバッシングが一斉に報じられたことを記憶されている方も多いと思います。
この提言では、「資産寿命を延ばすことが重要」という問題提起のはずが、世間には「年金不足懸念」という部分のみがクローズアップされてしまい、老後の資金設計についての「不安」が増す結果となりました。

金融庁:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 「高齢社会における資産形成・管理」の詳細は、下記の参考リンクでご確認ください。

公的年金の制度については、正しい理解が何よりも大切だと思います。
厚労省では、「いっしょに検証!公的年金」というサイトで基本的な制度の解説に止まらず、財政検証結果、世代別ポイント解説など分かりやすく説明をしています。
政府、厚労省の肩を持つわけではありませんが、制度を理解することが不安解消の第一歩になると思います。

厚労省:「いっしょに検証!公的年金」の詳細は、下記の参考リンクでご確認ください。

筆者は、「年金が崩壊する」とは考えていません。
なぜならば、年金の崩壊を望んでいる人は「日本中に誰もいない」と思うからです。
望んでいないにもかかわらず「不安」という病魔が蔓延っているのが現状のようです。
とはいえ、現状のままで未来永劫制度が維持できるとも考えておらず、制度の維持のためには

●保険料負担の上昇
●年金受給額の引き下げ・据え置き等
●保険料負担年齢の拡大(原則20歳以上の引き下げ・60歳未満の引き上げ)
●年金受給開始年齢を引き上げ(例えば68歳など)
●保険料未納問題の解消

その他、様々な条件悪化が予想されるでしょう。
現実的には、上記などのどれか一つを実行すれば公的年金の未来が切り開けるわけではなく、痛みを和らげ分かち合うために考えられる全ての項目で条件の悪化を国民が受け入れ、且つその実行が必要になると思っています。

公的年金にも様々な問題点が潜在しており、「公的年金があれば老後は大丈夫」と指摘するつもりもありません。
むしろ、公的年金だけでは老後資金は「足りない」という現実を直視する必要もあるでしょう。

老後を迎えるすべての国民が「年金不安に苛まれている」と嘆くだけではなく、各々が「我が家の老後資金の収支」について冷静に自己分析することが大切です。

そのためには、従業員を雇用している事業主も各々が分析できる環境と知識を提供可能な環境整備をおこなうことは大切なことだと思います。

老後の資金設計の中核を担う年金問題については、政府や自治体に任せっきりにすることなく雇用主も従業員に対する老後の資金設計に関する研修などによる情報提供、学習機会の提供は大切であると思います。

とりわけ、シニア社員にとっての老後の資金設計は、切実に迫った懸念であるため不安解消を図り、働く環境作りはモチベーションに好影響を与えるでしょう。
このようにして各々のシニア社員が、自らの収支を知ることができれば、安心を得るための行動に結びつけることができるはずです。

安心を得るための行動の結果、年金受給額プラス現預金など資産の計画的な切り崩しによって「老後資金が賄える」というシニアにとっては、現状が確認できれば安心感は高まり、働くモチベーションは高まるでしょう。

その一方で年金と資産だけでは老後資金が「賄えそうもない」という残念な結果も浮き彫りになることもあるでしょう。
前向きに考えれば、その結果を糧に不足金額を補うための対策を検討する動機付けになり、目標が明確になるという利点があります。
目標なしに不安・不満を抱き続けたままではモチベーションは下がる一方になるでしょう。

何よりも注意しないといけないのは、様々な思惑から発信される「老後資金は〇〇〇万円必要」という不安を煽る意見には惑わされず、現状把握のうえ準備に向けて冷静に不安感を和らげ、不安解消のための行動が大切なはずですので、それを把握するための機会の創出は、効果的だと思います。

老後の資金設計

シニア社員の不安解消が、モチベーションアップにつながるか?
まずは、老後資金の収支を予測してみることからスタートしましょう。
収支予測に際しては

●給料明細や源泉徴収票などの収入に関する資料
●年金定期便などの年金受給に関する資料
●企業年金や確定拠出年金等の見込みに関する資料
●毎月の支出額×12か月=年間支出額
●電化製品買換えや旅行代・自動車関連などの一時的な支出見込み金額
●住宅ローンや自動車ローン等の借入れ返済に関する資料
●預貯等の金融資産状況の資料
●将来の希望
●その他の資料

を準備しておくと比較的簡単に収支予測ができます。

後資金の収支については、下記のリンクで簡易シミュレーションができます。
金融広報中央委員会:「ライフプランシミュレーションをしてみよう」

●年間収支の赤字額を把握
●預貯金などを切り崩した場合、予想される金融資産の残高推移を確認

1.収入を増やす
「いくつまで」、「いくら」の収入見込みを検討→必要に応じ可能な範囲で実行

2.支出を減らす
固定費・変動費・希望する支出の点検と削減
一般的には、変動費の削減よりも生命保険料や読んでいない新聞代、使っていない固定電話代、スマホの料金プランなど固定費の削減効果は大きい
あわせて、使途不明金の発見と使途の明確化

3.収入も増やし、計画的支出の双方を実行
収入増と支出減を合わせて実行すると老後資金不足の対応力は高まる

4.子ども等と協力体制
家族で話し合いのうえ事情が許せば、子どもとの同居や生活資金の一部援助等、改善に向けた検討の余地が生み出される可能性は広がる

5.その他
予期しない支出を補う高額療養費制度や高額介護サービス費、地方自治体独自の給付金・支援金など、高齢者に対しては負担軽減策が存在しており、これらの内容を把握して不安要素を少しでも減らしておく。
これらの負担軽減策は、原則として申請が必要になるため自治体に確認する。

いずれの項目についても「決して無理をしない!」という心構えで臨むようにしましょう。

シニア社員にとっては、お金のために「働いても・働いても」思うように収入が得られなければ、働くことが“苦痛”になり兼ねません。
働く喜び無くして、よい仕事ができるのか?働く側の社員も、雇う側の雇用主も双方とも疑心暗鬼が「拭い去れない」という事態に陥ってしまうと弊害以外は生まれません。

シニアになると体力の衰えを感じる方は少なからずいます。
体力のみならず、気力という側面においても集中力・やる気・根気などの低下に止まらず、従来の経験則だけに頼っていられない時代なのかもしれません。
さらに年下の後輩から「指示を受ける」という抵抗感もあるでしょう。

このように、いつまでも、いくつになっても、働き続けることに抵抗を感じることは不自然ではなく、当たり前の感情だと思います。
シニア社員に対するモチベーションは、給与という金銭的な待遇改善を図れば済む問題ではなく、一つの要因に過ぎません。

モチベーション向上のために

●働く機会の確保
●年金不安の解消のための偏りのない情報提供
●老後の資金設計に関しての勉強会等の実施
●シニア社員の意識改革のための研修などの機会創出
●ライフ・ワークバランスを考える研修などの機会創出
●研修等で十分な新たな知識・経験の習得機会の創出
●説明すればちゃんと納得が得られる評価基準の明示
●その他、「働く喜び」についての研修

これらを実施するとともに雇用主および一緒に働く仲間達(年下の上司・同僚・後輩)との意思疎通が図れるとシニア社員のモチベーションは、維持・向上するでしょう。

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このコラムを書いた人

石村 衛(いしむら まもる)講師
石村 衛(いしむら まもる)講師

【経歴】
FP事務所 ライフパートナーオフィス 代表
東京都金融広報委員会 金融広報アドバイザー
株式会社JBMコンサルタント 契約講師

【資格】
ファイナンシャルプランニング1級技能士
日本FP協会 CFP(R)

大手食品メーカーにて、全国にまたがる流通卸や大手小売企業の営業を担当。その後、社内管理部門やマーケット開発部門、東京広域支店支店長を務める。
2001年 FP事務所ライフパートナーオフィスを開設、代表就任。相談業務をおこなうと共に若手・ベテラン、退職予定者向け等に向けた「ライフプラン講座」などの官公庁や企業研修講師を多数務め、その他「金融経済教育」をテーマにした小・中・高校・大学・専門学校における出前授業やイベント、保護者向けの教育資金講座やお金と生活のかかわりに関する講座などを幅広く手掛け、年間100件以上(2019年実績)を務める。ちびっ子からシニア層まで幅広く対応しており、「中立・公正」、「わかりやすさ」をモットーにリピートでご依頼いただくケースが多い。
著書に「お金ってなんだろう?~子どもに伝えたい大切なこと~」(PHP研究所)他


≪主な研修実績≫
ライフプラン/金融リテラシー/キャリア育成/確定拠出年金/金融商品販売者・購入者/入社前/新入社員/若手社員/中堅社員/退職予定者
コンクール指導
消費者教育の推進に関する法律 第14条3 対応研修

≪主な実績企業≫
官公庁/地方自治体/大手金融機関/信用金庫/保険代理店/商工会議所/法人会/公益社団法人/一般社団法人/大手製薬会社/部品加工会社/私立大学/公立学校 その他多数

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