第12回 その生命保険本当に必要?!【死亡保険 後編】 Author:石村 衛

2021年8月30日|カテゴリー「石村先生と考える“心豊かな人生100年時代”
生命保険
「安心」を得るためには、コストがかかることは皆さんご承知のことだと思います。
コストをかけても、万が一の際に手持ちの資金だけでは資金不足になる恐れがある場合、保険料というコストを負担しての保険加入は、「合理的な選択」と言えます。

ところが、「万が一の際に必要となる資金不足の対処法」としての選択肢の一つであるはずの保険活用が、「漠然とした不安解消」という曖昧な動機による保険加入があとを絶ちません。
「心配・不安」という病魔は、財布の健康を害することが多く、何とも曖昧な言葉を用いて煽るような心配・不安商法に惑わされないように気を付けたいものです。

その生命保険本当に必要?!【死亡保険 後編】


生命保険に関する心配事の中で、シニア期になると激増することがあります。
それは、「保険更新のお知らせが届き、保険料が大幅に増加する」というものです。
「保険料の大幅な増加」という事態に「こんなに多額の保険料は家計負担が重すぎて支払えない」と感じてしまい、「どうすればよいのか?」を思案している様子がうかがえます。

死亡保険契約の実態を見てみましょう。生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」の調査では、シニア期になっても、相変わらず保険が大好き(不安懸念維持?)なシニアが多いようです。
同調査では、世帯が加入している死亡保険金額は、55~59歳での世帯で2,320万円、60~64歳2,296万円、65~69歳1,534万円となっています。


生命保険
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」をもとに筆者グラフ作成

シニア期における死亡保険の必要保障額

これほどの保障が「必要なのか?」、前編で登場したAさんのご家庭を例題にして試算してみます。

前編で例題に登場したAさんが60歳でお亡くなりになったと仮定

前提条件

●Aさん60歳 再雇用社員 勤続38年 亡くなったときの平均標準報酬月額35万円
※平均標準報酬額とは、賞与を含めた平均月収のこと(平成15年4月以後の被保険者期間の場合)
預貯金等 800万円(退職金は受取済)

●配偶者58歳 パート収入100万円/年(60歳までパート勤務)
国民年金加入期間(第1号+第3号)38年

●第一子30歳 結婚済 別世帯

●第二子28歳 独身  同居

Aさんのご家庭の基本生活費:25万円/月(住宅ローン⇒団信で消滅後の金額)

●子どもの教育費:第一子・第二子ともに既に自立済みのためこれから先は不要

【ステップ1】シニア期を迎えた後の必要な資金を考える

<子どもが自立するまでの生活費の簡易計算>

現状の基本生活費×12か月×(子どもの自立年齢※-第二子現在年齢)×家族人数の減少による基本生活費の低下割合※

25万円×12か月×(22歳※-28歳)×70%※=0万円…A計算



<子どもが自立後の配偶者生涯生活費の簡易計算>

現状の基本生活費×12か月×(配偶者死亡年齢※-現在年齢-上記計算期間)×家族人数の減少による基本生活費の低下割合※

5万円×12か月×(86歳-58歳-0年)×50%=4,200万円…B計算



<ご遺族が必要な資金の合計>

A計算+B計算+子供の教育費+その他※=ご遺族が必要な資金合計

0万円+4,200万円+0万円+300万円=4,500万円
・その他については、葬儀費用や住宅関連費など様々な支出の可能性が考えられるが、ここでは最低限の予備費的な金額を300万円とし、前述の試算と金額の変更はしていない

生命保険


【ステップ2】遺族年金の見込み額(注2)を考える

●子どもは既に18歳到達のため遺族基礎年金はない

●標準報酬月額35万円×5.481÷1,000×456か月×3÷4=656,076円/年(注3)
●配偶者が亡くなるまで受給(86歳までの28年間)

●585,700円/年
配偶者65歳までの7年間

●780,900円×456か月(38年)÷480か月(40年)=741,855円/年(注4)
65歳以降86歳までの期間(86歳-65歳=21年間)

公的遺族年金受給見込み総合計額

(イ)遺族基礎年金
0円

(ロ)遺族厚生年金
656,076円×28年間=18,370,128円

(ハ)中高齢寡婦加算
585,700円×7年間=4,099,900円

(ニ)老齢基礎年金
741,855円×21年間=15,578,955円

(イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)=38,048,983円≒3,800万円

※上記の公的年金の計算は、本来は該当する経過月数がベースになるが、説明用に簡略計算として年数で計算しているので、加入月数次第で受給見込み金額等は異なります。

【ステップ3】預金や退職金の有無、配偶者の収入状況を確認する

●預貯金等 800万円
●退職金 0万円(すでに受取り済み)
●配偶者収入 100万円/年×(60歳-58歳)=200万円

【ステップ4】必要な資金と遺族年金、その他の資産の収支を計算する

<収支計算>

ご遺族が必要な資金合計-遺族年金受給見込み額-預貯金-退職金-配偶者収入=死亡保険の必要保証額

4,500万円-3,800万円-800万円-0万円-200万円=-300万円

死亡保険の必要保障額は算出されず、保険で補う必要性は「ほとんどない」という試算結果でした。

まとめ

生命保険
「シニアのための生命保険」という観点で必要保障額を試算すると、子どもは既に自立をされ養育義務から解放されているケースが多数であると思います。
配偶者もいずれ天寿をまっとうされるため、生活費の保障は減少に伴い必要保障額も減少の一途をたどることになるでしょう。

「保険の更新で保険料が激増する」という悩みの対処方法は、なにより死亡保険の必要保障額という考え方に基づいて、無理に従前の保障額を維持して更新しようとせず、「減少している」であろう必要保障額にあわせる、あるいは更新しないで打ち切るという選択肢も検討してみましょう。
それにより、不安解消と保険料負担の軽減が図れれば、「一石二鳥」と言えると思います。

多くの場合の更新によって保険料が増加するタイプの死亡保険の商品名は、「定期保険特約付き終身保険」または「利率変動型積立終身保険」である場合が多く、いずれの商品についても特約として保障されている定期保険特約部分の更新が、更新時年齢の保険料で査定されることが増加原因として推察されます。

定期保険特約は。いわゆる「掛け捨て」と呼ばれる保障になりますので、保障の必要性がなくなれば減額あるいは特約部分のみの解約をすると良いと思います。

ちなみに、保険商品は主契約(定期保険付き終身保険の場合の主契約は終身保険)を解約するとそこに付加されている特約部分も含めてすべての契約が終了します。
一方で、主契約の解約はせず、特約のみの部分解約は可能です。

あわせて、特約部分のみの見直しに止まらず、主契約も含めた全体の必要性とそのtらにも契約している保険があれば、その保険についても検討すると良いでしょう。

保険を見直す際には、ごく一部の熱心な保険会社・保険代理店の営業社員の中には、「こんな保障」「あんな保障」といった具合に「心配・不安商法」を展開するケースがあります。

中には死亡保障は今までの契約よりも保険金額を多少は減額するとしても、「お葬式代」と称して「数百万円~数千万円の死亡保険の契約継続または新規契約を勧める」といったケースもあります。
その勧誘する営業社員の意図は、そのお客様がいったいどんなお葬式を上げることを「願っているのか」を想像して勧誘しているのか?疑問に思うこともあります。

何よりも、手元に多少の預貯金がある方にとっては、死亡保険金でお葬式を挙げなくてはいけない理由は乏しいはずです。仮にその預貯金を使ってお葬式代としても相続人から異論は出にくいのではないでしょうか?

「子どもに負担をかけたくない」という気持ちは、誰でも持つ感情ですので理解できますが、子どもの多くは自立をしていると思います。仮にお葬式代にならないほどの預貯金しか残せなくとも、身の丈に合ったお見送りをおこなうでしょう。
そのことについて子どもは「迷惑」と思うのでしょうか?

一昔前の保険の営業手法は、「義理・人情・プレゼントで契約を取る」という手法が用いられていた時代もあったようです。
令和の時代になりこのような「非合理的な営業手法は姿を消した?」と思いますが、心配事や不安感情はいつの時代も消滅することはなく、時と場合によっては冷静な判断が付かなくなってしまうことも皆無ではないと思いますので、注意しましょう。

●保険会社・保険ショップの営業社員は保険を販売するのが仕事で、たくさん売れた方が営業成績は上がる

●シニアの死亡保険は、多くのケースではお役御免

●シニア期になっても被保険者(この方が亡くなると保険金が支払われる)の収入に依存しており、遺族年金と預貯金等ではとても生活が成り立たない恐れのある遺族がいる場合に限って、不足する生活費などを補填するために死亡保険加入を検討する。

●資産家や法人経営者などの限られた特定の方にとって、相続税の節税目的として加入を検討する。

●資産が不動産に偏り、現金納付が求められる相続税が多額に必要となる地主さん等が、保険金として支払われる現金を用いて納税資金準備のため加入を検討する

●「貯蓄のため」として貯蓄性の高い「低解約期間付き終身保険」「外貨建て終身保険」といった貯蓄性の高い生命保険を契約するケースもありますが、超低金利の日本において保険を利用した貯蓄は、解約制限や為替変動による元本割れ懸念があるため、メリット・デメリットをしっかり理解する。

シニア期に差し掛かると死亡保障の必要性は低下する反面、医療費負担の増加が心配・不安になってきます。
「医療費の負担軽減にシフト」という医療保険の勧誘にも十分注意が必要だと思います。
次回は、「その生命保険本当に必要!【医療保険編】」というテーマです。お楽しみに!


注2) 厚生・基礎年金の年金額は年度のより改定されることになるが、上記の例題における遺族年金の金額シミュレーションではすべて令和3年度価格(※3)を用いている
※3 日本年金機構:遺族基礎年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)

注3) 遺族厚生年金のシミュレーションでは、平成15年4月以後の被保険者加入月数のみが対象になるという前提で実施(※4)
※4 日本年金機構:遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)

注4) 今回のシミュレーションでは、配偶者の厚生年金加入歴は無いものとし、老齢基礎年金のみを試算(※5)
 ※5 日本年金機構:老齢基礎年金(昭和16年4月2日以後に生まれた方)

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ゲストプロフィール

石村 衛(いしむら まもる)講師
石村 衛(いしむら まもる)講師

【経歴】
FP事務所 ライフパートナーオフィス 代表
東京都金融広報委員会 金融広報アドバイザー
株式会社JBMコンサルタント 契約講師

【資格】
ファイナンシャルプランニング1級技能士
日本FP協会 CFP(R)

大手食品メーカーにて、全国にまたがる流通卸や大手小売企業の営業を担当。その後、社内管理部門やマーケット開発部門、東京広域支店支店長を務める。
2001年 FP事務所ライフパートナーオフィスを開設、代表就任。相談業務をおこなうと共に若手・ベテラン、退職予定者向け等に向けた「ライフプラン講座」などの官公庁や企業研修講師を多数務め、その他「金融経済教育」をテーマにした小・中・高校・大学・専門学校における出前授業やイベント、保護者向けの教育資金講座やお金と生活のかかわりに関する講座などを幅広く手掛け、年間100件以上(2019年実績)を務める。ちびっ子からシニア層まで幅広く対応しており、「中立・公正」、「わかりやすさ」をモットーにリピートでご依頼いただくケースが多い。
著書に「お金ってなんだろう?~子どもに伝えたい大切なこと~」(PHP研究所)他


≪主な研修実績≫
ライフプラン/金融リテラシー/キャリア育成/確定拠出年金/金融商品販売者・購入者/入社前/新入社員/若手社員/中堅社員/退職予定者
コンクール指導
消費者教育の推進に関する法律 第14条3 対応研修

≪主な実績企業≫
官公庁/地方自治体/大手金融機関/信用金庫/保険代理店/商工会議所/法人会/公益社団法人/一般社団法人/大手製薬会社/部品加工会社/私立大学/公立学校 その他多数

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