第11回 その生命保険本当に必要?!【死亡保険 前編】 Author:石村 衛

2021年8月19日|カテゴリー「石村先生と考える“心豊かな人生100年時代”
生命保険
「安心」を得るためには、コストがかかることは皆さんご承知のことだと思います。
コストをかけても、万が一の際に手持ちの資金だけでは資金不足になる恐れがある場合、保険料というコストを負担しての保険加入は、「合理的な選択」と言えます。

ところが、「万が一の際に必要となる資金不足の対処法」としての選択肢の一つであるはずの保険活用が、「漠然とした不安解消」という曖昧な動機による保険加入があとを絶ちません。
「心配・不安」という病魔は、財布の健康を害することが多く、何とも曖昧な言葉を用いて煽るような心配・不安商法に惑わされないように気を付けたいものです。

その生命保険本当に必要?!【死亡保険 前編】

そもそも、生命保険の加入については、その目的を明確にする必要があります。
下記のグラフは、 生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」の調査結果です。
この調査によると民間の生命保険に加入した目的の第一位は、「医療費や入 院費のため」という回答が57.1%と過半を占めています。

生命保険


この加入目的は、次回以降のコラムで取り上げる予定の「その生命保険本当に必要!【医療保険編】」にて取り上げる予定ですので今回は割愛させていただくとして、第二位の「万が一のときの家族の生活保障のため」という回答(49.5%)が死亡保険の加入目的の実質第一位として位置づけられます。
この結果は、死亡保険の加入理由では他の項目(ご葬儀代の準備やその他の備え等)を寄せ付けないほどの多数を占めています。

それでは、生命保険の加入目的が、前述の「万が一のときの家族の生活保障のため」ということであれば、残されたご遺族が最低限必要な生活費を確保する必要があります。
「皆さんはこれくらいの金額に入っている」、「人気ナンバーワン!」という情報は無視しましょう。
なぜならば、各家庭の生活費は一律ではないため、他の家庭や人気のことよりも、「我が家の生活水準に合致した保障が何よりも大切になるからです。

「保険料が高い」、「保険はよくわからない」という状況に陥り、心配・不安ばかりが気になり、「保障の必要性」については考えが及ばないことになると「保険の入り過ぎ」が発生しやすくなり、「保険料の垂れ流し」に結びついてしまいます。
そもそも、生命保険の加入目的における実質第一位の「万が一のときの家族の生活保障のため」に必要となる資金を具体化して試算してみましょう。

【ステップ1】ご遺族が必要な資金を考える
【ステップ2】遺族年金の見込み額を考える
【ステップ3】預金や退職金の有無、配偶者の収入状況と働く意思を確認する
【ステップ4】「必要な資金」「遺族年金」「その他の資産」の収支を計算する

子育て期における死亡保険の必要保障額

前提条件

●Aさん40歳 会社員 勤続18年 亡くなったときの平均標準報酬月額30万円
●平均標準報酬額とは、賞与を含めた平均月収のこと(平成15年4月以後の被保険者期間の場合)
 預貯金50万円 死亡退職金500万円

●配偶者38歳 パート収入100万円/年(60歳までパート勤務を希望)
 国民年金加入見込み期間(第1号+第3号)38年

●第一子10歳

●第二子8歳

●Aさんのご家庭の基本生活費:25万円/月(住宅ローン⇒団信で消滅後の金額)

●子どもの教育費
 第一子 公立小学校2年・公立中学3年・公立高校3年・私立大学4年の進路予測
 第二子 公立小学校4年・公立中学3年・公立高校3年・私立大学4年の進路予測


それでは、Aさんがお亡くなりになってしまい、Aさんの収入が途絶えてしまった場合の加入しておきたい死亡保険の必要保障額について考えてみましょう。

【ステップ1】ご遺族が必要な資金を考える

残されたご遺族が必要な資金は、基本生活費(食費・被服・光熱・その他毎月の支出)に加えて、子供の教育費、住居費、その他が必要となります。


<子どもが自立するまでの生活費の簡易計算>

現状の基本生活費×12か月×(子どもの自立年齢※-第二子現在年齢)×家族人数の減少による基本生活費の低下割合※

25万円×12か月×(22歳※-8歳)×70%※=2,940万円…A計算

※子どもの自立年齢を22歳と仮定
※家族人数の減少による基本生活費の低下割合(70%or50%)の根拠は、Aさんが亡くなり減少する可能性のある金額を基本生活費の低下割合としたが、明確な根拠は存在しない


<子どもが自立後の配偶者生涯生活費の簡易計算>

現状の基本生活費×12か月×(配偶者死亡年齢※-現在年齢-上記計算期間)×家族人数の減少による基本生活費の低下割合※

25万円×12か月×(86歳-38歳-14年)×50%=5,100万円…B計算


<ご遺族が必要な資金の合計>

A計算+B計算+子どもの教育費(注1)+その他※=ご遺族が必要な資金合計

2,940万円+5,100万円+920万円(注1)+300万円=9,260万円
・教育費については、第一子+第二子の進路別教育費(注1:子どもの学習費調査等)の積算合計額
・その他については、葬儀費用や住宅関連費など様々な支出の可能性が考えられるが、ここでは最低限の予備費的な金額を300万円として計上した

【ステップ2】遺族年金の見込み額(注2)を考える

●780,900円+224,700円+224,700円=1,230,300円/年
第一子18歳到達後の年度末までの期間(18歳-10歳=8年間)

●780,900円+224,700円=1,005,600円
第一子18歳到達後、第二子18歳到達後の年度末までの2年間

●平均標準報酬月額30万円×5.481÷1,000×300か月(注4)×3÷4=369,968円/年(注3)
●配偶者が亡くなるまで受給継続(86歳までの48年間)

●585,700円/年
第二子18歳到達後、配偶者65歳までの17年間

●780,900円×456か月(38年)÷480か月(40年)=741,855円/年(注5)
65歳以降86歳までの期間(86歳-65歳=21年間)

公的遺族年金受給見込み総合計額

(イ)遺族基礎年金
1,230,300円×8年間=9,842,400円
1,005,600円×2年間=2,011,200円

(ロ)遺族厚生年金
369,968円×48年間=17,758,464円

(ハ)中高齢寡婦加算
585,700円×17年間=9,956,900円

(ニ)老齢基礎年金
741,855円×21年間=15,578,955円

(イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)=55,147,919円 ≒5,510万円

※上記の公的年金の計算は、本来は該当する経過月数がベースになるが、説明用に簡略計算として年数で計算しているため、加入月数により年金受給見込み額は異なり、また、その他の状況次第で見込み額は異なります。

【ステップ3】預金や退職金の有無、配偶者の収入状況と働く意思を確認する

●預貯金 50万円
●死亡退職金 500万円
●配偶者収入 100万円/年×(60歳-38歳)=2,200万円
配偶者は、現在のパートを60歳まで継続することを希望している

【ステップ4】「必要な資金」「遺族年金」「その他の資産」の収支を計算する

<収支計算>

ご遺族が必要な資金合計-遺族年金受給見込み額-預貯金-退職金-配偶者収入=死亡保険の必要保障額

9,260万円-5,510万円-50万円-500万円-2,200万円=1,000万円

死亡保険の必要保障額は、「1,000万円」という試算結果のため、500万円から1,500万円程度の死亡保険に加入すると安心感が高まる


この試算では、「子どもの自立年齢」や「家族が減ることによる生活費低下見込みの割合」、「配偶者の寿命」、「物価の変動」、「将来の年金制度の変更」など全く根拠が乏しい部分も少なからず含まれているため、この試算が正しいわけではありません。

この試算におけるポイントとなる注意点は、

☑それぞれにより全く異なるはずの基本生活費を出発点にしている。

☑遺族年金は、子どもの有無や人数、年齢により受給総額は異なる。

☑厚生年金の被保険者の方が亡くなった場合には、その方の給料水準(平均標準報酬月額)によって受給額は全く異なる。

☑厚生年金の被保険者と国民年金の被保険者では、遺族年金の受給金額はまったく異なる。

☑死亡保険の必要保障額の試算は、共働き世帯において配偶者の収入が期待されるため必要保障額は少なくなる傾向がある。

☑パートナーに先立たれてしまった配偶者が、「生活のため」などの理由で、それまでよりも多額の収入を得られるように働けば、必要保障額の減少要因となる。

☑子どもがいないご家庭の場合には、遺族基礎年金の支給がないため、遺族年金額が少なくなる、または受けられない一方で、子どもの生活費や教育費の負担も生じないため、必要保障額は少なくなる場合が多い。

☑独身のうちは、そもそもその方の収入に依存している家族は限定される。独身者の一般的な死亡保険金の受取人となる両親は、たとえ年金収入だけであっても経済的な自立をしているケースが圧倒的多数を占めており、そのケースでは亡くなられた方からの収入依存がないため必要保障額は算出されない。

☑独身者は、いずれ良縁に恵まれて結婚することもあると思うが、不安がなければ、結婚をされてから改めて必要となる保障について検討しても決して遅くはない。

☑一般的には、子どもの誕生時が常に必要保障額のピークとなるため、結婚というキッカケよりも子どもの誕生というキッカケのほうが死亡保険の加入の必要性が高まる。


上記の様々なポイントとなる注意点を踏まえた上でも、上記の試算は一定の根拠に基づいており、個々のご家庭の現状にあわせつつ、ご希望に応じて仮定部分を調整することで「一定の判断基準」といて用いることができます。

保険という買物は、長期間・継続的な保険料を支払います。生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」の調査によると世帯の平均年間払込保険料は「38.2万円」となっており、1か月あたり3万円を上回る程度です。
1か月3万円くらいなら「捻出できる」としても、30年間支払い続ければ、保険料払い込み累計は1,080万円に達してしまいます。
保険の入り過ぎには注意しましょう。



注1)子どもの教育費は、文科省:平成30年度 子どもの学習費調査(※1)及び私立大学等の令和元年度入学者に係る学生納付金等調査(※2)より算出
※1 文部科学省:平成30年度子供の学習費調査

※2 文部科学省:私立大学等の令和元年度入学者に係る学生納付金等調査

注2)厚生・基礎年金の年金額は年度のより改定されることになるが、上記の例題における遺族年金の金額シミュレーションではすべて令和3年度価格(※3)を用いている
※3 日本年金機構:遺族基礎年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)

注3)遺族厚生年金のシミュレーションでは、平成15年4月以後の被保険者加入月数のみが対象になるという前提で実施(※4)
※4 日本年金機構:遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)

注4)一定の支給要件を満たした遺族厚生年金では、被保険者期間が、300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算(※4)

注5)今回のシミュレーションでは、配偶者の厚生年金加入歴は無いものとし、老齢基礎年金のみを試算(※5)
※5 日本年金機構:老齢基礎年金(昭和16年4月2日以後に生まれた方)

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このコラムを書いた人

石村 衛(いしむら まもる)講師
石村 衛(いしむら まもる)講師

【経歴】
FP事務所 ライフパートナーオフィス 代表
東京都金融広報委員会 金融広報アドバイザー
株式会社セゾンパーソナルプラス 契約講師

【資格】
ファイナンシャルプランニング1級技能士
日本FP協会 CFP(R)

大手食品メーカーにて、全国にまたがる流通卸や大手小売企業の営業を担当。その後、社内管理部門やマーケット開発部門、東京広域支店支店長を務める。
2001年 FP事務所ライフパートナーオフィスを開設、代表就任。相談業務をおこなうと共に若手・ベテラン、退職予定者向け等に向けた「ライフプラン講座」などの官公庁や企業研修講師を多数務め、その他「金融経済教育」をテーマにした小・中・高校・大学・専門学校における出前授業やイベント、保護者向けの教育資金講座やお金と生活のかかわりに関する講座などを幅広く手掛け、年間100件以上(2019年実績)を務める。ちびっ子からシニア層まで幅広く対応しており、「中立・公正」、「わかりやすさ」をモットーにリピートでご依頼いただくケースが多い。
著書に「お金ってなんだろう?~子どもに伝えたい大切なこと~」(PHP研究所)他


≪主な研修実績≫
ライフプラン/金融リテラシー/キャリア育成/確定拠出年金/金融商品販売者・購入者/入社前/新入社員/若手社員/中堅社員/退職予定者
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