第10回 シニア社員が働くと「年金が減る」ってホント?!~年金制度改正法の概要~ Author:石村 衛

2021年6月24日|カテゴリー「石村先生と考える“心豊かな人生100年時代”
シニア社員が働くと「年金が減る」ってホント!~年金制度改正法の概要~
2021年4月1日以降「高年齢者雇用安定法」に基づいて、従来の「65歳までの雇用確保(義務)」に加えて、新たに「70歳までの就業機会の確保(努力義務)」が設けられています。

老後の収入として大きな役割を果たす老齢厚生年金は、60歳以降も働き続けた場合「どうなるのか?」気になることだと思います。
60歳以降に年金を受給しながら働く場合は、一定の要件のもとで年金の減額または停止となる場合があります。
この年金の減額または停止措置、他の「年金制度改正法」が来年(2022年)4月より施行され、以下の点が変わる予定です。

1. 在職老齢年金の改正
2. 在職定時改定の新設
3. 年金受給開始年齢の拡大
4. 確定拠出年金(企業型・iDeCo)
5. その他(被用者保険の適用範囲の拡大)

厚労省:年金制度改正法の概要より

在職老齢年金の改正

従来は60歳以降に働き続け一定金額を上回って給料等を稼ぐと、老齢厚生年金の受給額が「一部または全部が支給停止される」という仕組み(在職老齢年金)の基準が緩和されることになりました。

まずは、在職老齢年金の改正について確認をしたいと思います。
そもそも、老齢基礎年金および老齢厚生年金の支給開始年齢は原則として65歳ですが、生年月日によっては65歳を待たずして「特別支給の老齢厚生年金」を受け取ることができます。


老齢基礎年金および老齢厚生年金(共済年金を含む)の受給開始年齢は、


<老齢厚生年金の受給開始年齢(2021年1月1日現在)>
老齢厚生年金の受給開始年齢


老齢厚生年金を受給中の方が、企業等に勤めて給料等で稼ぐ場合(給与所得)には、「在職老齢年金」という制度によって老齢厚生年金の一部または全部が支給されなくなる場合があります。
一方、フリーランスで仕事を請け負って得る収入(事業所得・雑所得)やアパート・マンションの家賃収入(不動産所得)、株式等の有価証券の売買差益収入(譲渡所得)や配当等の収入(配当所得)、その他に該当する収入は在職老齢年金の対象外となり、年金の一部または全部の支給停止はありません。

この年金の減額となる在職老齢年金制度は、「65歳未満の方」「65歳以上70歳未満の方」に分けられています。


<改正前の65歳未満の在職老齢年金>
改正前の65歳未満の在職老齢年金
注1) 基本月額とは、加給年金額を除いた特別支給の老齢厚生(退職共済)年金の月額
注2 総報酬月額相当額とは、(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12

例題1

月額給与 20万円+ボーナス3か月/年」=20万円+(20万円×3か月)÷12 =総報酬月額相当額25万円

特別支給の老齢厚生年金 12万円」のケースでは、「総報酬月額47万円以下」かつ「基本月額28万円以下」に該当


基本月額12万円-(総報酬月額相当額25万円+基本月額12万円-28万円)÷2 =7.5万円…減額後の年金額
上記例題1の収入は、減額後の年金7.5万円+給与20万円の27.5万円/月+ボーナスとなります。(年収390万円程度)


月額給与 30万円+ボーナス4か月/年」=30万円+(30万円×4か月)÷12 =総報酬月額相当額40万円

特別支給の老齢厚生年金 15万円」のケースでは、「総報酬月額47万円以上」かつ「基本月額28万円以下」に該当


例題2

基本月額15万円-〔(47万円+基本月額15万円-28万円)÷2+(総報酬月額相当額40万円-47万円)〕=5万円…減額後の年金額
上記例題2の収入は、減額後の年金5万円+給与30万円の35万円/月+ボーナスとなります。(年収540万円程度)


<改正前65歳以上の在職老齢年金>
改正前65歳以上の在職老齢年金
例題3

月額給与 15万円+ボーナスなし」 =15万円+(0万円×0か月)÷12 =総報酬月額相当額15万円

老齢基礎年金+老齢厚生年金 20万円」のケースでは、「基本月額+総報酬月額相当額が47万円以下」に該当


上記例題3のケースでは、年金の支給停止はなく、収入は15万円+20万円 =35万円となります。(年収420万円程度)


月額給与 20万円+ボーナス4か月/年」 =20万円+(15万円×4か月)÷12 =総報酬月額相当額25万円

老齢基礎年金+老齢厚生年金 24万円」のケースでは、「基本月額+総報酬月額47万円超」に該当


例題4

基本月額24万円-(基本月額24万円+総報酬月額相当額25万円-47万円)÷2 =23万円…減額後の年金額

上記例題4の収入は、減額後の年金23万円+給与20万円の43万円/月+ボーナスとなります。(年収576万円程度)

改正前の65歳未満の年金は、特別支給の老齢厚生年金(老齢基礎年金は未支給)という部分年金であるため、65歳以降になると受給することになる本来年金に比べると少額に止まります。
同時に在職老齢年金の仕組みにより、働いて給料等を多く得れば得るほど、年金が目減りすることになる仕組みです。
働いて給料等を得ながら年金が減額されたとしても、手取りの収入は増えることになりますが、働けば働くほど年金が減額されることで「就労意欲が萎える」という弊害が予てからささやかれていました。

2022年4月施行の年金制度改正法では、従来65歳未満の方を対象としていた在職老齢年金の基本月額、総報酬月額相当額の基準を撤廃し、65歳以上の基準に統一されることになります。


<改正後の在職老齢年金の適用基準>
改正後の在職老齢年金の適用基準
「月額給与 20万円+ボーナス3か月/年」=20万円+(20万円×3か月)÷12=総報酬月額相当額25万円

「特別支給の老齢厚生年金 12万円」のケースでは、「総報酬月額47万円以下」かつ「基本月額28万円以下」に該当


基準緩和の効果の例題1(前掲)

上記の例では、従来の基準では特別支給の老齢厚生年金12万円が7.5万円となり、▲4.5万円の収入減となっていたものが、2022年4月以降の改正では基本月額12万円+総報酬月額相当額25万円=37万円となるので年金減額の対象外となります。

なお今回の改正により、65歳未満の方に対する「年金減額基準の緩和」という恩恵を受けられる方は、生年月日が男性1956年(昭和31年)女性は1954年(昭和29年)いずれも4月2日生まれ以降、男性1961年(昭和36年)女性1966年(昭和41年)4月1日までに生まれた方が対象となります。
そのため、対象となる方は男性2025年度まで、女性2030年度までの経過的・限定的な制度となります。

在職定時改定の新設

65歳以降、老齢年金も受け取りながら仕事を続けて給料等を受け取る場合には、最長70歳まで引き続き厚生年金の保険料を給料天引きで納め続けることになりますが、その期間に納めた保険料に基づく老齢年金増額分は退職後にしか反映されませんでした。

2022年4月以降の改正年金制度法では、納めた保険料相当の老齢年金を毎年10月に増額改訂されることになりました。
これにより、最長70歳まで段階的に老齢年金が増額されることになります。

在職老齢年金の改正

年金受給開始年齢の拡大

公的年金(老齢厚生年金・老齢基礎年金等)は、原則として65歳に達してから受給が始まる仕組みです。
原則として65歳といっても様々な事情などに対応するため、受給者が選択できる仕組みがあり、それには繰り上げ受給(65歳を待たずして60歳以降の1か月単位で早めに年金を受け取る)や繰り下げ受給(65歳以降70歳までの間に1か月単位で受給開始を遅らせる)という選択肢があります。

年金の繰り上げ受給は、年金を受け取ることにできる人が任意で早めに受取る選択が可能です。
早期に受取を開始すると、65歳を起点として1か月あたり0.5%相当の年金が「減額」されます。
同様に年金の繰り下げ受給は、任意で65歳以降に遅らせて受取ると1か月あたり0.7%相当の年金が「増額」されます。
いずれの場合でも一度選択をして年金の受給を開始すると、減額または増額は生涯変わらず支給されるという仕組みです。

今回の改正では、繰り下げ受給受取開始年齢の上限を従来70歳までとされていたものを75歳までに延長されます。
これにより、年金の受け取り開始時期を遅らせれば遅らせるほど受け取る年金額が増加(最大で184.0%増額)することになります。

また、65歳を待たずして早期年金受取開始ができる繰り上げ受給の減額幅を0.5%から0.4%に改定することになり、減額幅が縮小されるため早期に受取開始をした場合は多少有利(最大で6.0%増額)になります。
この受取に関する改正は2022年年4月から適用され、2022年年4月1日以降に70歳に到達する方(昭和27年4月2日以降に生まれた方)が対象となります。


<繰り上げ・繰り下げ増減率>
在職老齢年金の改正
繰り上げ受給と繰り下げ受給、「どちらが有利?」という疑問を持つ方も多いと思います。
巷では、「早めにもらっておいた方が得!」あるいは「預貯金では絶対得られない利率で確実に年金が増額される方が良い!」様々な思惑が入り乱れているようです。

筆者の見解は、早めにもらうと有利なケースは「早死にする」ケースが有利になると想定される反面、長生きすればするほど「少ない年金を甘んじて受け取る」というデメリットが想定されます。
その一方で、繰り下げ受給を選択すれば、遅らせれば遅らせるほど「年金額が増加する」という効果があるものの、受取開始前に「寿命が尽きてしまう」という恐れもあります。

結論として、年金の受給開始年齢は、損得で検討するべきではなく、65歳を起点として60歳以降の収入補填の必要性が高い場合には「繰り上げ受給を選択」し、65歳以降も年金以外に一定の収入が見込める場合には、無理に年金を受給せずに「繰り下げ受給を選択する」という生活資金の必要性に着目して選択する考え方が良いと思います。

確定拠出年金(企業型・iDeCo)

確定拠出年金の加入可能年齢が広がり、年金受給開始年齢の選択肢が広がることになります。

確定拠出年金(企業型・iDeCo)
このほかにも、2020年10月施行の改正で中小企業向けに設立手続を簡素化した「簡易DC(※)」や、企業年金の実施が困難な中小企業がiDeCoに加入する従業員の掛金に追加で事業主掛金を拠出することができる「中小事業主掛金納付制度 (iDeCoプラス)(※)」について、制度を実施可能な従業員規模を現行の100人以下から300人以下に拡大されています。

※ 厚労省:2020年制度改正「簡易型DC・中小事業主掛金納付制度 (iDeCoプラス)」

その他(被用者保険の適用範囲の拡大)

シニア期を迎えた社員にとっての働き方は、関心の高いテーマだと思います。
2021年4月施行の「改正高齢者雇用安定法」に続き、2022年4月施行予定の「年金制度改正法」シニア社員にとって働くための制度や仕組みが整ってきたと言えるでしょう。

その一方で、いつまでも「働き続けること」への抵抗感・違和感を抱くのも不自然なこととは思えません。
「年金不信!」が叫ばれて久しく、年金制度の対する「不安」は解消されているとは思えません。
シニア期を迎えた方にとっては、今回の在職老齢年金の適用基準の緩和措置により、働くことによる「年金の減額幅縮小」という小さな一歩は踏み出されるようです。

「人生100年時代」というキーワードは、元気で心豊かに過ごすことが前提条件だと信じています。
コロナ自粛で思いました。「働かずに何もしない生活の方がかえって辛い!」と。
いくつになっても「現役で過ごす」という意欲を持ち続け、「収入のため」、「健康維持のため」、「社会貢献のため」等、様々な目的をもって働くことが「人生100年時代の過ごし方」かもしれません。
「隠居生活」という言葉は、現代社会では死語になりつつあるような気がします。

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このコラムを書いた人

石村 衛(いしむら まもる)講師
石村 衛(いしむら まもる)講師

【経歴】
FP事務所 ライフパートナーオフィス 代表
東京都金融広報委員会 金融広報アドバイザー
株式会社JBMコンサルタント 契約講師

【資格】
ファイナンシャルプランニング1級技能士
日本FP協会 CFP(R)

大手食品メーカーにて、全国にまたがる流通卸や大手小売企業の営業を担当。その後、社内管理部門やマーケット開発部門、東京広域支店支店長を務める。
2001年 FP事務所ライフパートナーオフィスを開設、代表就任。相談業務をおこなうと共に若手・ベテラン、退職予定者向け等に向けた「ライフプラン講座」などの官公庁や企業研修講師を多数務め、その他「金融経済教育」をテーマにした小・中・高校・大学・専門学校における出前授業やイベント、保護者向けの教育資金講座やお金と生活のかかわりに関する講座などを幅広く手掛け、年間100件以上(2019年実績)を務める。ちびっ子からシニア層まで幅広く対応しており、「中立・公正」、「わかりやすさ」をモットーにリピートでご依頼いただくケースが多い。
著書に「お金ってなんだろう?~子どもに伝えたい大切なこと~」(PHP研究所)他


≪主な研修実績≫
ライフプラン/金融リテラシー/キャリア育成/確定拠出年金/金融商品販売者・購入者/入社前/新入社員/若手社員/中堅社員/退職予定者
コンクール指導
消費者教育の推進に関する法律 第14条3 対応研修

≪主な実績企業≫
官公庁/地方自治体/大手金融機関/信用金庫/保険代理店/商工会議所/法人会/公益社団法人/一般社団法人/大手製薬会社/部品加工会社/私立大学/公立学校 その他多数


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