【さまざまな分野】第41回 成果主義人事の限界『(その5)マネジメントの空洞化の解決が急務』 Author:松丘 啓司

2020年11月26日|カテゴリー「さまざまな分野 ,さまざまな分野
こちらのブログでは、「成果主義人事の限界」をテーマに、「現状の成果主義人事のどこが、なぜ問題なのか、どのように変えていくことが必要か」という問いに対して、全6回の連載で順を追って解説しています。
今回はその中の5回目『マネジメントの空洞化の解決が急務についてお届けします。

★前回の記事を読む
成果主義人事の限界『(その5)マネジメントの空洞化の解決が急務』
成果主義人事がもたらした最大の問題はマネジメントの空洞化にあるといっても過言ではないでしょう。
その昔、バブル経済が崩壊した1990年代前半以前は、日本企業における経営の特徴は「ミドルアップダウン」にあるといわれていました。
特に大企業では、ミドル層が戦略や重要施策に関する企画を立て、それを上層部に諮って会社の方針として下すといったように、実質的な意思決定はミドルが行っていた企業が少なくありませんでした。
予算も含めてミドルが持つ裁量権は大きく、ミドルがチームを束ねて企画から実行までをリードしていたのです。

しかし、バブル崩壊から成果主義人事導入に至る過程において、ミドルの裁量権は上層部へと吸い上げられていきました。
日本企業もアメリカ企業のようにトップダウンで即断即決の意思決定をすべきである、といった当時の論調もそれを手伝いました。
いずれにせよ、国内の経済成長が止まり、グローバリゼーションが加速するなかで、トップダウンで構造改革を進めなければ立ち行かない状況になっていたのは事実です。
その結果、ミドルは文字通り「中間管理職」として、上から下りてくる目標が達成されるように管理する役割を担わされることになったのです。

成果主義人事の期間が20年ほど続いたことによって、企業のなかには管理は得意だがマネジメントの経験が欠如しているマネジャーが大半を占めるようになっています。
今後、ますますイノベーションが求められる経営の転換期にある今日、現場におけるマネジメント力強化は喫緊の課題です。
ミドルが変わらなければ、メンバーのマインドや行動は変わらないからです。
その際、過去のよき時代のミドルに戻ればよいわけではありません。これからの時代に適した「ピープルマネジメント」の開発が求められているのです。

管理者から支援者へ

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目標管理型のマネジメントの特徴は、動機付けの方法が極めて外発的であるところにあります。
部下に高い目標を設定させて目標の達成度で評価するという方法は、難しい問題を出して点数が高ければよい成績を付けるという試験勉強の動機付けと似ています。
「高い点数を取ったらご褒美をあげるのでがんばれ」と動機付けるわけですが、がんばりの部分は本人に委ねられています。

厳格な目標管理の手綱を緩めると業績が下がってしまうことを恐れるマネジャーも少なくありませんが、もともとマネジャーが行っているのは入口(目標設定)と出口(達成度による評価)を管理しているだけです。
肝心の途中のプロセスでパフォーマンスを高めていく部分は本人任せになっています。

成果主義人事によって、このような「採点官マインド」がまん延しています。
「目標は上から下すものだ」と公言するマネジャーがいますが、試験を教師が出す(=目標を上から下す)ことは採点官マインドからすると当然の発想です。
また、「モチベーションは自分で上げるものだ」と主張するマネジャーもいます。
これも、採点官が試験中に生徒を励ますことがないのと同様です。

もしかすると、マネジャーが途中のプロセスを支援したら本人の実力が分からなくなることを危惧している人がいるかもしれませんし、あるいは、部下の誰かだけを支援したら不公平になることを心配している人もいる可能性があります。
しかし、それらは全く無意味な心配です。
マネジャーの役割は、そもそも部下の実力を採点することではなく、部下のパフォーマンスを高めることによってチーム全体のパフォーマンスを高めることにあるからです。

目標管理型のマネジメントは、管理しているだけでパフォーマンスの向上を支援していません。
しかし、これからのマネジメントはむしろ一人ひとりのパフォーマンスの向上を支援するものでなければなりません。
マネジャーには「管理者」から「支援者」に役割を変えることが求められているのです。
このことはマネジメントの対象が、これまでの目標管理では扱われてこなかった領域に移っていくことを意味しています。

1on1はマネジャーにとっての経験学習の場

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個々人に応じた成長とパフォーマンス向上を支援するためのマネジメントのことを「ピープルマネジメント」と呼びます。
一部のリーダー候補だけを育てるのではなく、すべてのメンバーの成長を対象とするため、「ピープル」という表現が用いられるのです。
「ピープル」と複数形になっていますが、内容は一人ひとりに応じて異なる支援を行うことです。

人が何に対してモチベーションを高めるかという内的動機はもともとすべて異なるため、一人ひとりに応じたパフォーマンス向上を支援するためには、部下を内発的に動機付けることが必要です。
また、部下のポテンシャルを理解して、一人ひとり違った成長の手助けを行うことが必要とされます。
これまでのような外発的で画一的なやり方から、内発的で多様なアプローチへの180度の転換が求められるのです。

そのようなピープルマネジメントスキルを高めるためには、経験学習が不可欠です。
ピープルマネジメントスキルは、部下とのコミュニケーションを実践し、その経験を振り返って気づきを得て、それを踏まえてさらに実践するというサイクルを繰り返しながら学習を重ねることなしに向上しないからです。
そのため、職場においてマネジャーがピープルマネジメントを実践できる場が必要とされます。

成果主義人事の限界『(その5)マネジメントの空洞化の解決が急務』
従来の目標管理制度では、上司と部下の面談機会は期初、中間、期末の年に3回くらいしかありませんでした。
それではアジャイルなマネジメントが難しいことから、上司と部下がもっと頻繁に対話を行う、1 on 1(ワンオンワン)を導入する企業が増えています。
1on1はメンバーの成長とパフォーマンス向上を第1目的として設定されますが、それは同時にマネジャーにとっての学習の場でもあるといえます。

「うちのマネジャーはマネジメントスキルが低いから1on1はまだ導入できない」と話す人事の方もいます。
けれども、そうしてちゅうちょしていると、いつまでたってもピープルマネジメントスキルは高まりません。
マネジメントスキルの向上とメンバーの成長は車の両輪のようなものなので、片方だけでは成り立たず、同時に取り組んでいくことが必要なのです。

マネジャー自身のマインドと行動の変革が課題

1on1を導入してピープルマネジメントスキルを高めようとする際、マネジャーは具体的に何をすればよいかが問題になるでしょう。
コーチングなどの研修を導入して、型を作ろうとする企業も少なくありません。
もちろん、コーチングスキルはピープルマネジメントを行ううえで有益ですが、それは全体の一部であるため、まず、ピープルマネジメントの全体像を描くことが必要です。

1on1におけるピープルマネジメントには以下のような要素が含まれます。
成果主義人事の限界『(その5)マネジメントの空洞化の解決が急務』
一人ひとりに応じたマネジメントを行うためには、部下がどういう人であるかを理解しなければなりません。
それはつまり、その人がどのような内的動機を持ち、何を大切にする価値観を有しているかを知ることです。
内的動機や価値観が、その人ならではの強みの源泉となり、成長のためのポテンシャルになるからです。
その際に求められるコミュニケーションスタイルが「対話」です。

問題解決のための議論とは異なり、「この人はそういう価値観を持っているから、そこにこだわるのか」という相手の内面に気づくことから始めるコミュニケーションが対話です。
ただ傾聴するだけではなく、相手を理解しようとする姿勢が必要です。

目標管理型のマネジメントでは部下の内面を理解する必要がなかったため、マネジャーは部下に対してどのようにコミュニケーションをすればよいか、実感として分からないかもしれません。
そのため、部下理解のスキルを高めるためにマネジャーが最初に行うべきことは、自分自身の内的動機や価値観を理解することです。
それによって、目に見えづらい内面を理解するための感度を磨くことができるのです。
成果主義人事の限界『(その5)マネジメントの空洞化の解決が急務』
部下が自分の経験を振り返り、気づきを得て、次のアクションにつなげる学習のプロセスを上司は支援する必要があります。
本人の気づきを促す際には、部下に対して質問を投げかけながら、自分自身で考えさせるコーチングスキルが有益です。

同時に、上司には部下に対するフィードバックスキルが求められます。
特に、部下の望ましい行動に対するポジティブフィードバックが重要です。
パフォーマンス向上のためには、本人の強みを発揮した行動が強化される必要があるからです。

目標管理型のマネジメントにおいては、目標と実績のギャップがマネジャーの関心事となり、できていない課題に対して一方的に指摘しがちでした。
しかしここでも、マネジャーは自分自身の過去を振り返ってみることが有益です。
自分がモチベーション高く成果を挙げていた体験を振り返ってみると、そこでは自分らしい強みが発揮されていたことが分かるはずです。

成果主義人事の限界『(その5)マネジメントの空洞化の解決が急務』
目標を設定し、それに向けてアクションを行い、その結果を振り返って、さらに次の目標やアクションにつなげるサイクルを、部下が自律的に行うことができるようになるのが目指す姿です。
そのためには、目標を上から与えられるのではなく、自分でゴール設定できる力を養う必要があります。

部下の目標は当然ながらチーム全体の目標の達成に貢献するものでなければなりません。
しかし、同時に自分自身が達成したいという意欲を駆り立てられるものであることも必要です。
目標設定は組織のニーズと個人のニーズをつなぎ合わせる機能を果たします。

目標管理型のマネジメントでは目標は上から与えられたため、自分でゴールを設定する力が組織全体で劣化してしまっています。
上司が部下の目標設定を支援する際に、まず上司自身の目標が戦略的に考えられ、かつ自分の思いがこもった目標になっていなければなりません。
上司自身の目標が上から与えられている状態では、部下の自律的な目標設定を支援することは不可能です。

成果主義人事の限界『(その5)マネジメントの空洞化の解決が急務』
マネジャーは自分のチームのパフォーマンス向上だけでなく、メンバーの成長を支援する役割を担っています。
それはつまり、メンバーのキャリア開発を支援することと同義です。
そのため1on1の場では、目の前の目標やアクションばかりではなく、時には将来的なキャリアビジョンについても語り合うことが必要です。

上司が部下から「マネジャーは将来、どうなりたいのか?」とキャリアビジョンを尋ねられた時、上司が自分の思いを語ることができなければ、部下のキャリア開発を支援することは難しいでしょう。
自分のキャリアビジョンを持たない人から、キャリア開発を支援してもらいたいとは思わないからです。
そのため、上司自身がしっかりと自分の将来イメージを描けていることが不可欠です。

以上に述べてきたように、ピープルマネジメントを行うためには、部下にしてほしいことを上司ができていることが前提となります。
つまり、ピープルマネジメントスキルを高めるためには、マネジャー自身のマインドと行動を変えることが必要とされるのです。
マネジャーに対して、単に部下育成のスキルを身に付けさせようとするのではなく、マネジャー自身のさらなる成長を促すことが求められています。

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◆株式会社アジャイルHR
松丘啓司
松丘啓司(まつおか・けいじ)
株式会社アジャイルHR 代表取締役社長

1986年 東京大学法学部卒業。アクセンチュア入社

1992年 人と組織の変革を支援するチェンジマネジメントサービスの立ち上げに参画。以後、一貫して人材・組織変革のコンサルティングに従事

1997年 同社パートナー昇進。以後、ヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任

2005年 企業の人材・組織変革を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し、代表取締役に就任(現任)

2018年 パフォーマンスマネジメントを支援するスマートフォンアプリ「1on1navi」をリリース後、株式会社アジャイルHRを設立し代表取締役に就任し、日本企業のパフォーマンスマネジメント変革の支援をミッションとして活動中

著書は多数に上るが、「1on1マネジメント」(2018年)はピープルマネジメントの教科書として多くの企業で活用されている。「人事評価はもういらない」(2016年)は人事だけでなく一般の読者にも広く読まれるベストセラーとなった。

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