人的資本経営とは?成功事例6選と取り組むメリットを解説

2024年2月11日|カテゴリー「人材育成コラム
人的資本経営とは?
人材戦略にあたり、注目されている経営手法として「人的資本経営」が挙げられます。人的資本経営とは、人材を資本としてとらえ、価値を最大限に引き出すことにより、企業価値の向上につなげる経営手法です。

人的資本経営により、企業価値だけでなくエンゲージメントや投資価値も向上します。本記事では、人的資本経営の概要や注目される背景、メリットを事例とともに解説します。

人的資本経営とは

人的資本経営とは?
人的資本経営とは、従業員を「資本」としてとらえる経営手法です。従業員を限りある資源として考えるのではなく、事業の価値を向上させる投資対象として考え、従業員の価値を上げることにより利益につなげます。

人材版伊藤レポートでは、人材戦略には3つの視点と5つの要素が必要とされています。この考え方のフレームワークが「3P・5Fモデル」です。

ここでは、人的資本経営のポイントとなる3P・5Fモデルについて解説します。

人的資本経営に欠かせない3つの視点(3Pモデル)

人材版伊藤レポートによると、人的資本経営には以下の3つの視点が欠かせないとされています。

●経営戦略と人材戦略の連動
●「As is-To be ギャップ」の定量把握
●企業文化への定着

視点を意味する「Perspectives」から3Pモデルともいわれています。人材に投資し、企業価値の向上につなげるためには、経営戦略と連動した人材戦略が欠かせません。「As is-To be ギャップ」とは、理想像と現実とのギャップのことです。理想像と現実のギャップを定量的に把握することにより、問題や課題を把握できます。

経営戦略と人材戦略を連動させるには、企業理念や行動指針を従業員と企業で共有し、定着させることが大切です。そのためには、経営陣が人的資本経営への取り組みを積極的に発信する必要があります。

人的資本経営に共通する5つの要素(5Fモデル)

人材版伊藤レポートによると、人的資本経営に共通する5つの要素は以下のとおりとされています。

●動的な人材ポートフォリオの策定と運用
●知・経験のダイバーシティ&インクルージョンの推進
●リスキリング・学び直しの支援
●従業員エンゲージメントの向上
●時間や場所にとらわれない働き方の推進

要素を意味する「Factors」から、5Fモデルともいわれています。人材ポートフォリオの策定では、スキルや経験、在籍期間をリアルタイムで可視化できるようにすることが重要です。人的資本経営では、多様性への対応が欠かせないためです。多様な知識や価値観、考え方を受け入れることは、イノベーションを生み出し、企業価値の向上につながります。

また、ニーズや技術の急速な変化に対応するためには、新たな知識の習得が欠かせません。人的資本経営では、従業員自身がキャリアを見据え、学び直せるような支援をすることが大切です。

従業員エンゲージメントも、人的資本経営に欠かせない要素です。従業員エンゲージメントとは、従業員の企業に対する帰属意識や貢献意欲、共感度を示す指標を指します。従業員エンゲージメントを向上させるためには、従業員から共感される経営戦略の構築とともに、パフォーマンスを発揮できる労働環境を整備することが大切です。

さらに、現代では働き方が多様化しており、在宅勤務やリモートワークなど、場所や時間にとらわれない働き方を選ぶ人も増加してきました。人材を確保し、事業を継続するためにも、時間や場所にとらわれない働き方ができる環境の整備が求められています。

ただし、多様な働き方に対応した場合、これまでどおりのマネジメントでは支障をきたす可能性があります。業務プロセスやコミュニケーション方法を見直すことも必要です。


人的資本経営が注目される背景

人的資本経営とは?
近年、人的資本経営が注目されている背景として、以下の4つが挙げられます。

●技術革新による人的資本価値の高まり
●少子高齢化による人材不足
●企業を取り巻く社会の変化
●ESG投資の普及

ここでは、それぞれの背景について解説します。

技術革新による人的資本価値の高まり

人的資本経営が注目される背景として、技術革新による人的資本価値が高まっていることが挙げられます。近年では、ITやAIの進歩により市場変化が起こり、第4次産業革命ともいわれる時代を迎えました。

多くの分野で技術革新が起こったことにより、人にしかできないクリエイティブな業務をこなす人材の資本価値が高まっています。クリエイティブな業務にはイノベーションが不可欠です。

イノベーションを起こすには、スキルやアイデアとともにパフォーマンスを発揮するための環境が必要です。従業員がパフォーマンスを発揮できる環境を整備するためにも、従業員に対して積極的に人的投資を行う必要があります。

少子高齢化による人材不足

少子高齢化による人材不足も、人的資本経営が注目される理由に挙げられます。日本では、少子高齢化による労働人口の減少が危惧されています。労働人口が減少した状況でこれまでと同等の生産性を保つには、一人ひとりの生産性向上が必要不可欠です。

一人ひとりの生産性を向上させるためにも、従業員に対して投資をする必要があり、人的資本経営が注目されています。

企業を取り巻く社会の変化

企業を取り巻く社会の変化も、人的資本経営が注目される理由です。近年ではサステナビリティ(持続可能性)への取り組みやパンデミックへの対応など、企業を取り巻く状況は予測困難な時代になってきました。日々刻々と変化する状況に対応するためには、専門的かつ新しい視点と発想を持った人材が必要です。

コロナ禍にリモートワークが急速に普及したことにより、働き方に対する従業員の意識も変化してきました。そのため、従来の画一的な方法でのマネジメントではなく、企業と従業員の関係強化を意識したマネジメントが必要になっています。

働き方が異なる従業員のパフォーマンスを最大限に引き出すためにも、人的資本経営が求められています。

ESG投資の普及

ESG投資の普及も、人的資本経営が注目される理由のひとつです。近年では、環境汚染や労働問題といった社会課題の解決の観点から、サステナビリティが注目されています。サステナビリティを重視した投資をESG投資と呼び、以下の要素が評価項目となっています。

●Environment:環境
●Social:社会
●Governance:ガバナンス

その中の「Social」に対する取り組みに、人的資本経営が関係しています。人的資本経営に取り組めば、企業が成長するだけでなくSocialの項目が評価され、投資家から高い評価を得ることが期待できます。投資家から評価される要素が変化したことも、人的資本経営が注目される理由といえます。


人的資本経営がもたらすメリット

人的資本経営とは?
人的資本経営がもたらすメリットには、以下の3つが挙げられます。

●エンゲージメントが高まる
●企業の社会的価値が向上する
●投資対象となり得る

ここでは、それぞれのメリットについて解説します。

エンゲージメントが高まる

人的資本経営がもたらすメリットとして挙げられるのは、エンゲージメントが高まることです。人的資本経営を行った場合、人材への投資が増え、従業員が成長しやすい環境になります。自己成長の機会を提供されることで、従業員は「会社から必要と思われている」と感じ、会社への感情がポジティブなものになります。会社へのポジティブな感情は、エンゲージメント向上につながるでしょう。

エンゲージメントが向上すれば、業務に対する取り組み方も変わります。優秀な人材も、離職することなく会社に貢献してくれるでしょう。結果的に、企業全体の組織力アップや生産性向上、離職率低下などにつながるのです。

企業の社会的価値が向上する

企業の社会的価値が向上することも、人的資本経営がもたらすメリットです。人的資本経営に取り組んでいる企業は、「人材を大切にする会社」として周囲から認知されます。

周囲から良い印象を持ってもらった企業は、社会的な価値も向上するため、自社のサービスを利用してもらえる可能性が高まります。企業の評価や認知度が上がれば、「この会社で働きたい」と考える人も増えるでしょう。

人的資本経営によって企業の社会的価値が向上すると、優秀な人材が集まる可能性も高くなるのです。

投資対象となり得る

投資家の投資対象となり得ることも、人的資本経営がもたらすメリットのひとつです。人材への投資状況は、投資家が企業の価値を判断する指標のひとつです。従業員に対して投資をしている企業は、成長する可能性が高いと判断され、投資対象として認識されます。

投資家からの支援を受けられれば、新事業の立ち上げやさらなる環境改善もできるでしょう。人的資本経営に取り組み、投資対象となることで、企業の利益増加につながる可能性があります。

人的資本経営の事例6選

人的資本経営とは?
人的資本経営に取り組む企業は多く存在しており、企業によって取り組み方は異なります。特に参考となる企業は以下の6社です。

●旭化成株式会社
●オムロン株式会社
●株式会社荏原製作所
●アステラス製薬株式会社
●伊藤忠商事株式会社
●花王株式会社

ここでは、それぞれの事例を紹介します。

旭化成株式会社

旭化成は、優秀な人材の確保とサステナビリティの追求を目標として掲げ、人材ポートフォリオの策定と運用に注力しています。専門性を強化したい領域を「コア技術領域」と定め、高度な専門性を持つ人材を人材ポートフォリオで可視化しました。

経営戦略と連動させた人材ポートフォリオは、採用や人材育成に活用され、求める人材が採用できない場合は、M&Aやベンチャー企業との連携を通じて人材を確保しています。

ほかにも、従業員の意識調査の項目を見直すことで、職場環境の整備にも取り組みました。それにより、従業員エンゲージメントの向上に成功しています。

オムロン株式会社

オムロンは、人材育成や従業員エンゲージメントの向上に取り組んでいます。人事の役割は「企業の付加価値に責任を持つ立場である」という方針を軸に、人事情報システムを用いて社員の能力や経験、考え方を可視化して、適切な人材配置を実現しました。

また、従業員エンゲージメント向上に対する取り組みとして、経営陣がエンゲージメントをモニタリングできる仕組みを取り入れています。従業員の声を収集し、集計結果を分析したスコアからエンゲージメントを把握し、経営課題としてとらえるようにしました。

さらに、企業理念を体現した事例をグローバル全社で共有することにより、企業理念を浸透させることに成功しています。

株式会社荏原製作所

荏原製作所は、知・経験のダイバーシティ向上に取り組んでいます。人材の活躍促進を、長期ビジョン「E-Vision2030」における重要課題のひとつとして位置付けました。長期ビジョンに掲げる海外事業戦略を実現するため、グローバルキーポジションを設定し、海外拠点人材も含めた選抜・育成を行っています。

また、人材確保への取り組みとして、自社のアルムナイ制度「エバルムナイ」で退職者とのネットワークを形成しました。アルムナイ専用のクラウド型SNSシステムを導入し、社内ニュースやキャリア採用情報を継続的に提供しています。

加えて、外部研究機関との共同研究や、学術分野からの専門家の招聘にも力を入れることにより、アクセス可能な人的資本の範囲を拡大しています。その結果、多様な人材の獲得や協業・オープンイノベーションの促進に成功しました。

アステラス製薬株式会社

アステラス製薬は「価値を作り出すのは人である」の考えのもと、従業員エンゲージメント向上に尽力しています。「事業部のリーダーの質を高めるサポート」を人事部門の役割として再定義しました。

経営陣とともに、HRデータの分析結果から組織健全性に対する目標を設定し、社内文化やマインドセットの浸透に取り組みました。経営陣と社員が直接対話する機会を設けたり、リーダーが従業員の質問に答えたりするセッションを開催しています。

また、社内公募による社内転職制度を設け、部門側が自部門の魅力や求める人材をアピールする機会を設けています。これらの取り組みにより、エンゲージメント向上を実現しました。

伊藤忠商事株式会社

伊藤忠商事は、経営理念「三方よし」のもと、持続的な成長に必要な人材戦略を、重要な経営戦略と位置付けています。戦略目標ごとに期待される成果を開示し、企業価値に直結する人材戦略と期待される成果を明確化しました。

労働生産性の向上を重視し、その成果を積極的に社外に発信していることも特徴です。これにより、人的資本経営の取り組みがステークホルダーからも評価されやすい状態を築いています。人材戦略と成果の開示により、学生からも評価を受け「大学生の就職人気企業ランキング1位」の獲得につなげました。

花王株式会社

花王は、従業員を「会社最大の資産」ととらえ、人材育成に取り組んでいます。目標管理制度を、従来のKPIから、挑戦と連携を重視するOKRへと変更しました。従業員が主体的な目標を設定することにより、一人ひとりの成長促進を後押ししています。

また、経営トップを委員長とする「人財企画委員会」を毎月開催し、人材育成に対する課題や施策を議論する機会を設けています。経営陣と従業員が一体となって人材開発に取り組むことにより、従業員の意識向上を実現しました。

まとめ

人的資本経営とは?
人的資本経営とは、従業員を「資本」としてとらえる経営手法で、従業員を事業の価値を向上させる投資対象として考えます。投資によって従業員の価値を高めることで、企業の利益向上を目指す考え方です。人的資本経営は、技術革新や少子高齢化による人材不足、企業を取り巻く社会の変化のほか、ESG投資の普及により、注目を集めるようになりました。

人的資本経営に取り組むことによるメリットには、以下の3つが挙げられます。

●エンゲージメントが高まる
●企業の社会的価値が向上する
●投資対象となり得る

人的資本経営に取り組んでいる企業は多く存在しており、その取り組み方は企業によって異なります。本記事の事例を参考に、自社に適した人材戦略を策定しましょう。

まとめ

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