人材戦略とは?フレームワークや企業の成功事例を紹介
2023年8月18日|カテゴリー「人材育成コラム」
人材獲得競争の激化や技術の進歩により、人材戦略の重要性が高まってきました。人材戦略とは、経営目標達成に向け、人的資源をどのように活用していくかという戦略のことです。人材戦略に成功すれば、従業員の定着率向上や生産性向上につながります。
本記事では、人材戦略の概要やフレームワークとともに、人材戦略を進めるうえで意識すべきポイント、2023年のトレンドについても解説します。
人材戦略とは?
人材戦略と経営戦略の関係性
人材戦略が重要視される背景
人材戦略が重要視される背景として、人材獲得競争の激化や技術の進歩が挙げられます。現代の日本では、少子高齢化による労働人口の減少の影響で、採用市場は「売り手市場」になっています。働き方に対する考え方も変化し、従来の終身雇用が成り立たなくなり、転職が当たり前の時代になってきました。
また、ITやAIといった技術の進歩により、DXを推進できる専門的なスキルを持った人材の確保が必要になっています。国内での外国人労働者も増加しており、グローバル人材の活用に対応できる組織づくりも求められています。
優秀な人材に選ばれる企業になるためには、必要な人物像を設定したうえで、どのように採用や育成をしていくのかといった戦略が必要です。人材戦略がなければ、企業は生き残っていけない時代へとなりつつあります。
人材戦略のフレームワークとは
採用
人材育成
配置転換
定着
定着は、企業の将来に関わる人材戦略です。企業が継続的に発展するためには、人材の定着が欠かせません。せっかく育てた人材が退職してしまっては、これまでの採用や育成にかけたコストが無駄になるだけではなく、企業の未来を担う人材が不足することになります。
企業が継続的に発展していくためには、定着率を高める仕組みづくりをする必要があります。定着率を高めるための指標になるのが、企業に対する貢献意欲や帰属意識を示す「従業員エンゲージメント」です。
従業員エンゲージメントを高めるためには、ワークライフバランスの推進や働き方の多様化、評価制度の見直しといった採用から育成、配置の連動性を高めることが大切です。従業員が「この会社に貢献したい」「ここは自分のパフォーマンスを発揮できる場所だ」と思うような取り組みを意識しましょう。
効果的な人材戦略を実現するための4ステップ
1.経営戦略を明確に定める
前述したように、経営戦略と人材戦略は、連動していなければなりません。そのため、人材戦略を決める前に、経営戦略を明確に定めることから始めます。客観的なデータから、自社が実現したい姿や市場における課題、競合との立ち位置、現状の経営状態について把握したうえで戦略を定めましょう。
経営戦略を明確に定めるには、KGIとKPIを意識した計画を立てる必要があります。KGIとは「Key Goal Indicator」の略で、最終目標を指します。KPIは「Key Performance Indicators」の略で、中間目標のことです。最終目標だけでなく、中間目標を定めることにより、進捗率が明確になります。
KGIとKPIは定量的なものにしましょう。例えば「顧客満足度の向上」では、どうなったら達成したのかわかりません。「顧客満足度を前年より10%向上させる」のような定量的な目標を設定することにより、達成率が明確になります。
2.企業が求める人材を定義する
経営戦略を定めたら、自社の目標達成のために必要な人物像を定義します。人物像を定義する際は、スキルや経歴、年齢といった表面的な情報だけではなく、価値観や考え方も考慮しましょう。価値観や考え方も考慮することにより、採用基準が明確になり、採用後のミスマッチを回避できます。
人物像を定義する際は、各部署の関係者からヒアリングを実施します。ただし、ヒアリングする時期には注意が必要です。繁忙期や閑散期では、必要な人物像の条件が異なるケースがあります。
特に、繁忙期の場合、現場の時間を取れず、具体的な情報を聞き出せないこともあるでしょう。人物像の精度を上げるためには、通常期の状態でヒアリングすることが大切です。
3.現状を把握し課題を明確化する
4.人材戦略実現に向けたプロセスを設計する
現状を把握し課題が明確になったら、人材戦略実現に向けたプロセスを設計します。課題解決に向けて、人事異動や採用計画といった取り組みを設計していきます。具体的に挙げられるのは、以下の取り組みです。
●採用プロセスの改善
●研修制度の見直し
●目標管理制度の見直し
●評価制度の見直し
●人員配置手法の変更
プロセスを設計するだけでは目標は達成できません。経営戦略と同様にKPIを設定し、定期的に効果測定をすることが大切です。ただし、経営目標に引っ張られ、高すぎる目標を設定した場合、従業員のモチベーションが下がる可能性があります。
頑張れば実現できるレベルの目標設定にすることが大切です。小さな目標に取り組みながら、PDCAサイクルを回していくことを意識しましょう。
人材戦略を進めるうえでのポイント
DX人材の育成に取り組む
DX人材の育成に取り組む
人材戦略を進めるうえで意識すべきポイントとして挙げられるのは、DX人材の育成に取り組むことです。DX人材とは、DXを推進・実行していく人材を指します。DX人材が求められる背景には「2025年の崖」と呼ばれる問題があります。
「2025年の崖」とは、ブラックボックス化されたレガシーシステムの存在により、新しい技術を取り入れられず、維持管理コストと生産性の両面で大きな経済損失が発生する問題です。
2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」によると、2025年までにこの問題を克服できない場合、DXが実現できないだけではなく、毎年最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると試算されています。
経済損失を回避するためにも、DXの推進は必須課題であり、推進できる人材の育成が求められています。
SDGs人材育成を推進する
2つ目のポイントは、SDGs人材育成を推進することです。SDGs人材とは、SDGsに関する取り組みを推進していく人材を指します。SDGsの取り組みとして企業ができることのひとつに、健康経営への取り組みが挙げられます。
健康経営とは、経営戦略のひとつとして、従業員の健康管理に取り組み、業績向上へつなげる経営手法です。健康経営の取り組みとしては、フィットネスジムの利用補助や栄養バランスを考えた食事の補助、健康に関する研修の実施が挙げられます。
健康経営をはじめとしたSDGsに取り組むことにより、学生の興味を引いたり、時代の変化に対応している企業として周囲にアピールできたりします。周囲に好印象を与えることにより、優秀な人材の確保や企業イメージの向上につながるでしょう。
従業員のキャリアアップを支援する
3つ目のポイントは、従業員のキャリアアップを支援することです。近年では働き方改革や価値観の多様化により、性別や年齢、価値観、働き方など、多様なバックグラウンドを持つ従業員が在籍する企業が増えています。
これまでの年功序列や労働時間の長さを基準とした評価制度では、人材の流出は避けられません。働き方や評価制度を整備することにより、多様なバックグラウンドを持つ従業員が活躍できる環境を整えることが大切です。
また、2022年10月、経済産業省は「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を発表しました。その中に掲載された総合経済対策に、副業を受け入れる企業への支援や、リスキリングの支援があります。
副業やリスキリングの推進により、従業員は既存の業務では習得できないスキルを身につけられます。多様な価値観を持つ従業員が活躍できる環境を整え、スキルアップを支援する制度をつくることにより、従業員のキャリアアップを支援して、企業の継続的な発展につなげられるでしょう。
大手企業における人材戦略の成功事例
大手企業における人材戦略の成功事例として、住友生命保険相互会社(以下、住友生命)の取り組みを紹介します。住友生命では、CX(お客さまの体験価値)の最大化を目指し、経営戦略とIT・デジタル戦略を融合させた中期システム化計画(2022)を策定しました。
先進技術に対する興味と専門知識を持ち、これらを活用できる人財を育成・確保することを目的として、新卒採用に「I T人材採用コース」を設置しました。インターンシップでは「DX・デジタルビジネス発想コース」を開催し、デジタルビジネス全般を学ぶとともに、自社に興味を持ってもらえるような取組みを進めたのです。
全職員を対象に「ITパスポート」の受験を推奨し、ITリテラシーの向上を図ったり、子会社とともにエンジニアやデータサイエンティストの育成にも取り組んだりしています。また、集合研修やオンラインワークショップ形式による「価値創造型人財」の教育プログラムも実施しています。
その取り組みが評価され、2021年7月に「DX認定事業者」に認定されました。
2023年:人材育成のトレンド
従業員への両立支援
パーソナライズドラーニング
リスキリング
まとめ
人材戦略とは、経営目標を達成するため、人事異動や人材育成、採用を計画的に実施する戦略のことです。少子高齢化や人材の流動化が加速したことにより、注目が集まっています。
人材戦略は「採用」「人材育成」「配置転換」「定着」の4つの要素で構成されており、効果的に進めるためには、手順に沿って実施する必要があります。
人材戦略を進めるうえで意識すべきポイントは、以下の3つです。
●DX人材の育成に取り組む
●SDGs人材育成を推進する
●従業員のキャリアアップを支援する
2023年では、従業員への両立支援やパーソナライズドラーニング、リスキリングがトレンドとなっています。ポイントやトレンドを参考に、自社に適した人材戦略を実現しましょう。
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