第2回 『初めての資産運用の心得(前編)』 Author:石村 衛

2021年1月12日|カテゴリー「石村先生と考える“心豊かな人生100年時代”
初めての資産運用の心得
退職時期が近づくと「退職金」の行方が気になりはじめる頃だと思います。
受け取る退職金を「どのくらい使う?」、そして「どこに貯める?」といった具合に多方面から思案をされると思います。

これを機会に「資産運用にチャレンジしてみたい」という方も少なくないようです。

これまで資産運用を積極的におこなってきたベテラン個人投資家はともかく、資産運用の未経験者あるいは会社の確定拠出年金でチョッピリ投資信託による運用をした経験を持つ等の初心者は、事前に知っておけば、多少なりとも役立つことがあります。

今回は、前編・後編の2回に分けて「資産運用の心得」を記載していきます。

退職金を受け取ると金融機関より「退職金キャンペーン」の勧誘を受ける機会が訪れます。
代表的なキャンペーンには、満期まで期間の短い定期預金(3か月満期等)に0.1%~0.3%程度相当の金利が上乗せ適用される「金利優遇定期預金」や「退職金キャッシュバック」「ポイント還元」といった金融商品が用意されています。

これらのキャンペーン商品は、メリットはそれほど大きくないものの、相対的に安全志向の商品が中心になっています。

一方、「優遇金利5%」あるいは「それ以上」といった目を疑うような破格なメリットを謳った退職金キャンペーンも存在しています。

よくよく目を凝らしてみると、多くの金融機関では高金利の適用を受けるためには条件が定められており「退職金の50%以上は金融機関が事前に指定している投資信託の購入」というキャンペーンが代表例だと思います。

このキャンペーンでは、定期預金部分は「優遇金利は3か月定期預金に適用」と老眼鏡をかけないと見えにくいほどの小さな文字の注意書きが、欄外に書かれています。

これを見た資産運用の未経験者や初心者の中には、「ちょうどよかった!」退職金の全額を運用に回すのは不安だが、「退職金の半分を運用して半分を安全性の高い定期預金で利息が稼げるなら一石二鳥」と感じても不思議ではなく、このように考えている人にとってはむしろ「渡りに船」で魅力的なキャンペーンに見えてしまうかもしれません。
 
初めての資産運用の心得
冷静に分析してみましょう。仮に退職金のうち1,000万円を5%の金利が付く「3か月定期預金に500万円」、「投資信託に500万円」という配分で振り分けたと仮定します。

預金の利息計算は、3か月定期の適用金利が5%の場合、
500万円×0.05÷12か月×3か月=62,500円(税抜)

これだけ見ると、超低金利に現状では魅力的と感じるかもしれませんが、この優遇金利は高金利適用の3か月経過後に満期を迎えたあとは、優遇の無い通常金利が適用され、何も手続きをしなかった場合には普通預金金利0.001%(令和2年12月金利)が適用され、満期後の1年経過時の受取利息は、50円(税抜)と激減してしまいます。

一方、投資信託に振り分けた資金500万円に対しては、金融機関の「お勧め投資信託」がずらっと並んでおり、未経験者、初心者にとっては、「どれを選んだらよいのか?」見分けがつかない状態に陥るでしょう。
当然のごとく、「どれを選んでよいのか?」金融機関の担当者に説明を求めることになるはずです。

ここで注意したいのが、売りたい人(この場合には金融機関の担当者)の提供する情報は「買ってほしい」という願いがタップリこもった情報の可能性は否定できません。
ということは、この願いがこもった情報には、買い手(=退職金による購入者)にとって必ずしも最適な情報提供とは限らないこともありますので、注意が必要です。

さらに投資信託は、元本保証ではないため運用方針に定めのある株式や債券などの運用先の把握は不可欠であるにもかかわらず、買い手の理解不足があっては後悔のもとになりかねません。

初めての資産運用の心得
よくあるケースですが、説明を受けた時には「何となく理解したつもり」であったはずが、その後、期間が経過しての運用結果が芳しくなく、原因不明状態に陥ってしまうことで「こんなはずではなかった!」と悔やんでも「あとの祭り」となってしまいます。

運用成績次第では、前述の定期預金分の優遇金利は「アッ」という間に消滅、あるいは含み損を抱える事態となりかねません。

また、投資信託には手数料が発生しますので、この手数料もしっかり把握しておかないと手数料による預金で得られる優遇金利利息が消滅してしまっては元も子もないはずです。

一般的に投資信託の手数料は、購入時にかかる「販売手数料」と資産を管理・運用する「信託報酬」で構成されます。
最近は販売手数料ゼロを謳う投資信託も増加傾向であるとはいえ、多くの投資信託の販売手数料は、概ね0.5%~2.5%程度になっています。

一方、信託報酬については、株式や債券などの運用先によって大きく異なり、概ね0.3%~1.5%程度が運用資産の中から徴収されていきます。

例えば、先ほどの例のように優遇金利5%の定期預金に500万円と販売手数料2%で信託報酬1.5%がかかる投資信託を選定してキャンペーンに参加、500万円を投じたとします。

この場合、投資信託の販売手数料は、
500万円×0.02=10万円(税抜)

販売手数料として10万円(税抜)が購入金額から差し引かれ490万円分の投資信託を購入することになります。
すでにこの時点で前述の例題では優遇金利の利息は消滅するどころか赤字に転落してしまいました。
おかしいですね。金利優遇メリットは存在しなかったのでしょうか?
初めての資産運用の心得
答えは「いいえ」でもあり「はい」でもあります。

いいえ」の場合は、2%の販売手数料が、実質0.5%に「軽減できた」と解釈が可能でしょう。

はい」の理由は、それならわざわざ手数料の高いキャンペーン対象の投資信託をセレクトせずに、「もっと販売手数料の低い、あるいはゼロの投資信託を候補にした方が良いのでは?」という選択肢があっても良いかもしれません。

さらに信託報酬については、「価格の上昇・下落」という値動きのある最中に徴収する運用期間中の手数料ですので、本来ここでは算出不能です。
あえて不正確ながら説明のために簡略化して記載すると、上記のキャンペーン利用の場合、定期預金部分の利息は考慮せず、販売手数料を支払った後に購入することになる投信490万円が、首尾よく1年後に信託報酬を控除しなかったと仮定した場合の評価額が505万円相当に上昇していたと仮定します。

このケースにおいて、現実には信託報酬は運用資産の中から支払われ、支払われたあとの資産評価に対する基準価格が表示されるため、基準価格に基づく評価額は505万円とはならず、1.5%の信託報酬を支払った後の495万円相当の基準価格となります。
このように、投資信託の購入者は気が付きにくいと思いますが、大まかな仕組みを知っておけば「徳はなくとも損もない」と思います。

販売手数料は、購入時の一回限りですので、投資信託を保有期間保有し続ければ1年あたりの実質負担は徐々に減少するとしても、信託報酬は保有期間中「ずーっ」と支払いことになります。
したがって、前述の例では最低毎年1.5%以上の投信の資産価値上昇が無いと収益は生み出されませんので、信託報酬は運用のハンディキャップになることは、理解しておきましょう。

売り手が、手数料の高い投資信託を「一所懸命推奨する」という邪推は考え過ぎとしても、手数料が「高い」からといって良好な運用成績が見込めるわけでもなく、「低いから成績期待が劣る」ということもありません。
手数料の高・低は運用結果とは無関係であり、販売会社や運用会社などに対する謝礼であることは、しっかり認識しておきましょう。

ここで誤解の無いように記載しておきますが、筆者は退職金を元手に資産運用を行うことに反対ではありません。
むしろ賛成という考えです。
賛成する前提条件として、未経験者や初心者が、資産運用をする場合には、目先の損得に惑わされることなく「自分の判断で取引できるようになること」だと信じています。

そのためには、以下の10の「ステップを踏む」と良いと思います。

初めての資産運用の心得
まずは、資産運用の「元手となるお金」を作ります。
元手となるお金については、退職金を候補とすることに異論はありませんが、退職まで頑張ってきた証である退職金は、老後のための大切なお金です。

当面10年程度は使う予定の無いお金が候補となるお金になります。
勧められるまま運用」や「流行りに乗っかる運用」、あるいは「理解不能は複雑な仕組みの運用」は慎みましょう。

スタート直後は、思惑や意図とは異なる結果(損失等)に対する耐性がありません。
極端な例ですが、まずは投資元本全額を失っても構わない程度の資金を用意してスタートしましょう。

大きな金額である必要はなく、スタート時は数千円でも十分だと思います。
最初は「運用」というよりも、興味・関心を高めるための「授業料」のつもりという心構えで臨みます。

運用対象となる資産を研究します。

● リスク(=不確定要因)が高い反面、収益期待の高い資産(例えば現物株投資)
● 収益期待は低めであってもリスクが低めの資産(債券)
● 家賃収入期待の不動産
● 資産の対象を国内又は海外
● 広く分散させるタイプの投資信託など

様々な資産が候補となりますので、それぞれの特徴や注意点などを確認しましょう。

ハイリスク・ハイリターンのギャンブル的な金融商品は手を出さないように意識を高めましょう。

初めての資産運用の心得
● 外国通貨為替取引(FX ドル・新興国通貨取引等)」
● 暗号資産取引(仮想通貨 ビットコイン等)
● 信用取引(株式等)
● 先物取引(金利・為替・株式・商品等)

は、特に注意が必要です。

これらに共通しているのは、
● 付加価値は生み出されず勝者と敗者のみに分かれるゼロサムゲーム
● 投資元本の数倍~数十倍のレバレッジ取引が可能
● 値上がりor値下がりという偶然に賭ける

といったハイリスク・ハイリターン商品です。

初めての資産運用の心得
利用できる仕組み・制度のメリット・デメリットをしっかり理解して利用を検討しましょう。

例えば、少額で時間の分散効果があり税にやさしい「つみたてNISA」をはじめるのも一つの手法です。
つみたてNISA(※1)は、時間の分散投資効果でリスクの軽減が期待できます。

また、監督官庁である金融庁の意向もあり、対象となる投資信託はすべて販売手数料が不要で、信託報酬も現在国内で販売されている投資信託の信託報酬平均に比べて大幅に低水準となっています。
反面、積立金額に限度額が設けられており、取扱金融機関に専用証券口座を開設する必要があるなど注意点もありますので確認しましょう。



以上、前編はここまでです。
次回は、【ステップ5】~【ステップ10】までをご紹介いたします。
お楽しみに。

※ 金融庁:あなたとNISA  

シルバー社員のセカンドライフ応援研修

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シルバー社員のセカンドライフの応援を目的とします。シルバー社員のマネープラン(得する知識)、キャリアデザインがセットされた研修です。
オンライン研修でありながら講義形式だけでなく、ワークを取り入れた参加型研修となっております。



JBMでは、上記以外の研修も柔軟に対応させていただきます。
ご質問やお見積りにつきまして、お気軽にお問い合わせくださいませ。
石村 衛(いしむら まもる)講師
石村 衛(いしむら まもる)講師

【経歴】
FP事務所 ライフパートナーオフィス 代表
東京都金融広報委員会 金融広報アドバイザー
株式会社セゾンパーソナルプラス 契約講師

【資格】
ファイナンシャルプランニング1級技能士
日本FP協会 CFP(R)

大手食品メーカーにて、全国にまたがる流通卸や大手小売企業の営業を担当。その後、社内管理部門やマーケット開発部門、東京広域支店支店長を務める。
2001年 FP事務所ライフパートナーオフィスを開設、代表就任。相談業務をおこなうと共に若手・ベテラン、退職予定者向け等に向けた「ライフプラン講座」などの官公庁や企業研修講師を多数務め、その他「金融経済教育」をテーマにした小・中・高校・大学・専門学校における出前授業やイベント、保護者向けの教育資金講座やお金と生活のかかわりに関する講座などを幅広く手掛け、年間100件以上(2019年実績)を務める。ちびっ子からシニア層まで幅広く対応しており、「中立・公正」、「わかりやすさ」をモットーにリピートでご依頼いただくケースが多い。
著書に「お金ってなんだろう?~子どもに伝えたい大切なこと~」(PHP研究所)他


≪主な研修実績≫
ライフプラン/金融リテラシー/キャリア育成/確定拠出年金/金融商品販売者・購入者/入社前/新入社員/若手社員/中堅社員/退職予定者
コンクール指導
消費者教育の推進に関する法律 第14条3 対応研修

≪主な実績企業≫
官公庁/地方自治体/大手金融機関/信用金庫/保険代理店/商工会議所/法人会/公益社団法人/一般社団法人/大手製薬会社/部品加工会社/私立大学/公立学校 その他多数


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