第1回 『不安に惑わされない!老後資金の考え方』 Author:石村 衛

2020年12月11日|カテゴリー「石村先生と考える“心豊かな人生100年時代”
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年金制度への不透明感から、退職後の生活に不安を感じる方も多いと思います。
金融審議会における令和元年6月3日付け「高齢社会における資産形成・管理」と題された報告書の内容に記載された「老後資金2,000万円不足問題」は、当時マスコミに大々的に取り上げられ大騒ぎとなったことをご記憶されている方も多いと思います。
まずは、金融審議会の公表資料(※1)に基づいて確認をしてみましょう。

不安に惑わされない!老後資金の考え方
(金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 「高齢社会における資産形成・管理」P10をもとに筆者が作成)

上記の収入・支出はあくまで平均的な数値に基づいています。ということは、「この数値よりも不足する恐れのある方」に止まらず、「これほど不足しない方も存在する」というのが正しい解釈のはずです。

ところが、この騒ぎは決して間違いではないにせよ、センセーショナルに不安を煽って「もっとたくさん金融商品を買ってほしい」という業界やマスコミの思惑が見え隠れしている可能性は「皆無ではない」かもしれません。
その後も老後資金の準備として「定年までに数千万円から1億円は準備が必要」との記事やコメントがネットや雑誌、その他で続々と紹介されて続けています。

果たして一体いくら貯蓄があれば、安心できるでしょうか?
結論から記載すると「万人にあてはまる安心できる老後資金は存在しない」というのが筆者の考えです。

不安に惑わされない!老後資金の考え方
各家庭の毎月の生活費は、20万円の家庭と30万円の家庭ではそもそも生活レベルが異なり、同じ土俵で論じることはできません。

また、家庭によっては、退職時点で「子どもの教育費負担が当面続く」、あるいは退職後も「住宅ローンの返済が続く」といった要因も考えられます。

さらに、退職したからといって上記で挙げた要因が無くとも、それまで享受してきた生活レベルを「望んで引き下げたい」と思う人はおらず、将来の生活レベルの予測はその時点の状況次第で柔軟に再検討する必要があります。成り行き任せの「ほったらかし」は避けましょう。

不安に惑わされない!老後資金の考え方
今後、公的年金だけで老後の生活費は賄えない可能性が高く、そうなれば貯蓄を取り崩さざるをえません。
そのために備える老後貯蓄ですので論理的には矛盾はありませんが、感情的には、貯蓄残高が徐々に減少していくので新たな不安⇒恐怖が芽生えます。

明確な根拠はありませんが、残高が一定金額を下回り始めると、貯蓄を取り崩すことに恐怖を覚えてしまい取り崩せなくなります。

「多く貯めると安心」という考え方は決して間違っていませんが、不安を完全に払しょくするほどの金額自体に基準は存在しておらず、その人の時点時点における価値観・生活感に起因しています。
そのため、「不安解消にはきりがない」という事態が容易に想像されますので、事実上不可能だと思います。

各自可能な範囲で「時には我慢をしつつ」、無理のない範囲で老後資金計画を目指しましょう。

不安に惑わされない!老後資金の考え方
「年金破綻!」というショッキングな話題をネットや雑誌、新聞、テレビ番組とあらゆるメディアが取り上げます。それを見て・聞けば、「本当に大丈夫か?」と不安になるのは当たり前の感情だと思います。

これらの記事は、「何もしないで手をこまねいていると本当に破綻しかねない!」と警鐘を鳴らしているに過ぎません。

年金破綻させないためには、「年金額の引き下げ」「受給開始年齢の引き上げ」「年金保険料の引き上げ」などのうちどれか、あるいは全部を「実施せざるを得ない」という痛みは避けられませんし、それは誰も望んでいません。

年金制度の破綻は、主権者である国民の過半が破綻を望めば破綻します。
国民が年金制度の破綻の「望んでいない」のであれば、受給条件は悪化したとしても持続可能な制度設計を掲げる政党・政治家に選挙で1票を投じるはずです。
一部の無責任な意見にあるような、「破綻を前提」に老後資金を蓄えようとするのは非現実的だと思います。

とはいえ、年金だけでは老後資金が不足することが分かっている以上、不足分を補うために行動≒資産形成をする必要があります。

不安に惑わされない!老後資金の考え方
インフレが起こると現在価値のお金は、徐々に目減りします。
つまり、現時点で老後資金の目標額を定めても、インフレが継続的に起こればその目標額自体の妥当性がなくなってしまいます。
「景気対策!」を合言葉に政府・日銀は物価上昇目標を安定的に2%の達成を目標に掲げています。
幸か不幸か?今のところは、その思惑通りに進んでいないようですが、意図的あるいは意図に反したインフレの可能性は皆無ではありません。

「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる(エリック・バーン)」という名言を聞いたことがあります。
将来の悲観的な予測が存在すれば、その予測を変える工夫が求められます。

【支出の部】
①現在の毎月の生活費×12ヶ月×②老後の生活年数(※2)+③退職後も続く特殊要因+④病気や介護費用に関する備えの費用=⑤老後資金総合計

※特殊要因とは、冠婚葬祭費や住居修繕費など一時的な支出など


【収入の部】
⑥夫婦合計の公的年金受給額(※3・4)×②老後の生活年数(※1)+⑦アルバイト代などその他収入=⑧老後収入総合計


【収支の部】
⑤老後資金総合計⑧老後収入総合計⑨必要貯蓄額


<例題>

【支出の部】
①毎月の生活費25万円、②老後の生活年数20年、③老後の特殊要因なし、④300万円

⇒25万円×12ヶ月×20年+300万円=⑤6,300万円


【収入の部】
⑥夫婦合計の公的年金受給額(※4)285.6万円/年、⑦なし

⇒⑥285.6万円×②20年=⑧5,712万円


【収支の部】
⑤6,300万円⑧5,712万円⑨588万円

この例題では、老後資金は588万円が不足するため、この金額を貯蓄しておくと多少安心が得られるかもしれません。

しかし、この簡易な老後資金の算出目安は、調査可能な過去の数値からの公的年金受給額(※4)の調査結果を抽出して基準にしており、将来公的年金の受給開始年齢引き上げや受給額減少の懸念、その他の不確定要因が山盛り中では、参考程度に過ぎません。

また、上記試算の基礎となっている寿命自体「何歳まで」は、不確定要因以外のなにものでもありません。

その他にもインフレの影響、その他のレジャー費や電化製品買い替え費用など一時的支出や冠婚葬祭などの突発的支出といった毎月の生活費以外の不確定要因は考慮していません。
そのため、条件次第で結果が大きく異なりますのであくまでも目安ですのでご注意ください。

とはいえ、老後資金を不安がるだけでは解決策は見つかりません。
現役で働いている間にできること、さらに退職後のことも視野に入れて、「我が家では」という前提で老後資金に対する蓄えを始めるとともに、年に一度程度は実績を考慮した上で将来の老後資金計画を見直していくと安心感は持続できると思います。


※1 金融庁:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 「高齢社会における資産形成・管理」P10

※2 65歳の平均余命 男性19.83年 女性24.63年
厚生労働省:主な年齢の平均余命(令和元年簡易生命表)より

※3 公的年金の年金見込み額の試算は、下記で目安を調べることができます
日本年金機構:ねんきんネット

※4 厚労省:年金制度基礎調査 表42 夫の現役時代の経歴類型別・妻の現役時代の経歴類型別 本人及び配偶者の平均公的年金年金額(配偶者あり世帯)2017年 ともに65歳以上である配偶者あり世帯(再掲)総数

シルバー社員のセカンドライフ応援研修

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シルバー社員のセカンドライフの応援を目的とします。シルバー社員のマネープラン(得する知識)、キャリアデザインがセットされた研修です。
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JBMでは、上記以外の研修も柔軟に対応させていただきます。
ご質問やお見積りにつきまして、お気軽にお問い合わせくださいませ。
石村 衛(いしむら まもる)講師
石村 衛(いしむら まもる)講師

【経歴】
FP事務所 ライフパートナーオフィス 代表
東京都金融広報委員会 金融広報アドバイザー
株式会社セゾンパーソナルプラス 契約講師

【資格】
ファイナンシャルプランニング1級技能士
日本FP協会 CFP(R)

大手食品メーカーにて、全国にまたがる流通卸や大手小売企業の営業を担当。その後、社内管理部門やマーケット開発部門、東京広域支店支店長を務める。
2001年 FP事務所ライフパートナーオフィスを開設、代表就任。相談業務をおこなうと共に若手・ベテラン、退職予定者向け等に向けた「ライフプラン講座」などの官公庁や企業研修講師を多数務め、その他「金融経済教育」をテーマにした小・中・高校・大学・専門学校における出前授業やイベント、保護者向けの教育資金講座やお金と生活のかかわりに関する講座などを幅広く手掛け、年間100件以上(2019年実績)を務める。ちびっ子からシニア層まで幅広く対応しており、「中立・公正」、「わかりやすさ」をモットーにリピートでご依頼いただくケースが多い。
著書に「お金ってなんだろう?~子どもに伝えたい大切なこと~」(PHP研究所)他


≪主な研修実績≫
ライフプラン/金融リテラシー/キャリア育成/確定拠出年金/金融商品販売者・購入者/入社前/新入社員/若手社員/中堅社員/退職予定者
コンクール指導
消費者教育の推進に関する法律 第14条3 対応研修

≪主な実績企業≫
官公庁/地方自治体/大手金融機関/信用金庫/保険代理店/商工会議所/法人会/公益社団法人/一般社団法人/大手製薬会社/部品加工会社/私立大学/公立学校 その他多数


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