『予測の不確実性と複雑性への対処法』理論から学ぶ「エフェクチュエーション」vol.3 Author:大島 直彰

閃き

中長期から短期予測をもとに当面の企業目的、目標を設計し、その目標を実現するために組織目標が掲げられ、所属組織目標、個々の目標の順におとし込まれる。いわゆる目標のブレイクダウンがなされその達成度合いやその成果に応じて評価が決まる目標管理制度(MBO)をとっている企業が多いと思います。まさにこちらがコーゼーション的アプローチ、一方、前回のブログにも記載しましたが、エフェクチュエーションに基づくアプローチとは、予測をもとにしない戦略を用いて、所与の手段から新しい目的を創りだそうとする取組となります。未来予測の文脈で考えると、コーゼーションの論理の前提が「未来を予測できる範囲において、我々は未来をコントロール(制御)することができる」とすることであり、エフェクチュエーションの論理の前提は、「未来をコントロール(制御)できる範囲において、我々はそれを必要がない」という考え方となります。


どちらが良い悪いというものではなく、未来が予測できるなら、コーゼーション、未来が予測できないならエフェクチュエーション、未来予測の確実性度合に応じて使い分けるのが良いのでは?個人的にはこういった仮説出しをしているところです。ただ多くの日本企業、特に大企業ではコーゼーション的アプローチがかなり習慣づけられていて、エフェクチュエーション的なアプローチに抵抗感があるかもしれませんし、そもそもエフェクチュエーションの考え方自体がまだまだ浸透していないのが実情かとおもいます。


 自分がエフェクチュエーション理論に知って間もないころに、エフェクチュエーションが今の日本に必要なのではないか?と感じたのは、このエフェクチュエーション理論を導き出したサラス・サラスバシー氏が来日した際のある対談についての投稿記事を読んだ時です。


コトラーの時代の理論では、狩猟採集民モデル(Hunter-Gatherer Model)と表現され、市場というものはあらかじめ存在していて、その発掘・発見をするのだ、という考え方が主流でした。つまり狩人のように茂みに分け入って、どこに市場があるのかと探していくわけです。獲物を探す、あるいは土地を獲得しに行く。その見返りとして市場・リーダーシップを得るという考え方です。一方、エフェクチュエーションは、「農耕」に近く、畑を耕し、水をやり、市場を生み出し成長させるという考え方。≫


サラス・サラスバシー氏博報堂 安藤元博 エフェクチュエーションは「コトラーのマーケティング」を超えるか(前編)から引用

 

マーケティング理論も含め経営学理論のほとんどが西欧からもたらされたもの、1990年代以降、日本企業の多くがそれまでのいわゆる日本的経営に、西欧発の経営戦略論や組織開発理論を適用、適応、適合させてきた30年が続いています。農耕民族と狩猟民族、社会の発展においての思想的背景や、そもそも人類が環境適応していく中で築かれてきた民族の風土背景を考えたとき、日本人はそもそも農耕民族、エフェクチュエーションが農耕民族的思考パターンであると考えたとき、まさに日本になじむのではないかと直観的に感じたからなのです。

分岐

さて現在マーケティング理論の主流といえるのが、まずは市場が定義され、つぎにセグメンテーション→ターゲティング→ポジショニングを考えていく、いわゆるSTP分析手法をとるのに対してエフェクチュエーションのマーケティングモデルは下図に表されるように正反対、意思決定者は、あらかじめ決められた結果、求められる結果、その前提となる市場からスタートしない。彼らは所与手段(意思決定者が誰なのか、何者なのか、どういう人間で、何を知っているか、誰をしっているか)からスタートする。偶然性や偶発性を伴いながらも継続的に新しい機会をつむぎ出し、かつそれを有利に活用しようとする。サラス・サラスバシーは著書でエフェクチュエーションが、本質的に「経路依存的」であり、とりわけ、「関与者依存的」であるとしています。図をみてもらうとアプローチの違いがわかりやすいかと思います。

エフェクチュエーション

【現在主流となっているマーケティングの教科書的モデル(コーゼーション)とエフェクチュエーションの比較】 

「エフェクチュエーション 市場創造の実効理論」著:サラス・サラスバシー 監訳:加護野忠男 訳:高瀬進 吉田満梨 図2-1をもとに当ブログ著者が作成

再び本の翻訳者まえがきより“市場は「発見される」ものではなく「つむぎだされる」ものである、と考えるエフェクチュエーションは、「市場というものが存在する」という前提に立つフィリップ・コトラー流の伝統的なマーケティング・マネジメントに対するアンチテーゼの側面もある。特定のニーズを持つ消費者は「交換の前提」ではなく、交換を通じて構築されるものであるという同様の指摘は、石井淳蔵教授(流通科学大学学長)による『マーケティングの神話』以降、日本マーケティング協会でもなされてきた議論とも共通するものであり、アントレプレナーシップ研究で生み出された概念がマーケティング研究に接続される可能性がある。<中略>本書はアントレプレナーシップの優れた理論書であるが、その貢献は、学問領域としての起業家研究にとどまらず、経済的機会の創出を行いたいと考えるあらゆる人々にとって、起業家的手法を理解するための、実践的な含意に溢れた優れた書物である。”

「エフェクチュエーション 市場創造の実効理論」著:サラス・サラスバシー 監訳:加護野忠男 訳:高瀬進 吉田満梨 

 

 すでに日本マーケティング協会エフェクチュエーション研究会にて、エフェクチュエーションの実践例や研究例も少しずつではありますが世に出され始めております。またここでいう「経済的機会の創出」を幅広く捉えたとき、エフェクチュエーション理論は、マーケティングやアントレプラナーシップ研究領域だけでなく、さまざまな分野で理解し、取り入れていくべき実践的思考法、考え方なのではないか?と自分は考えています。


とりわけ、変異ウイルスの感染拡大、進まないワクチン接種、収束が見えないコロナ禍日本、ニューノーマルの時代、時代の転換期に、自国でのワクチン開発はなかなか進ます、地方自治体も含めてIT化、DX化遅れが改めて露呈する状況、GDP数値を含めて世界から遅れをとっていることに気づかされる今、まさにエフェクチュエーション的なものの考え方や、エフェクチュアルな生き方、そして共想、共創する人間関係づくり、場づくりをしていく必要性を強く感じる今日この頃であります。

大島直彰 氏
大島 直彰(おおしま なおあき)講師

【経歴】
神戸大学経営学部卒 1993年関西テレビ放送(株)入社、2020年9月に関連会社である(株)関西テレビハッズに出向、新規事業推進室長(カンテレHRアカデミー長兼講師)

(多摩大学経営情報学研究科 経営情報学専攻修士課程MBAコース2012年修了 経営情報学修士 組織学会会員)



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