『予測の不確実性と複雑性への対処法』理論から学ぶ「エフェクチュエーション」vol.2 Author:大島 直彰

2021年5月11日|カテゴリー「『ビジネス思考力』コラム
『予測の不確実性と複雑性への対処法』理論から学ぶ「エフェクチュエーション」
熟達した起業家の意思決定理論である「エフェクチュエーション」理論ついてのブログ投稿第2回目は、1回目の投稿の最後に記載した4つの原則と1つの世界観の説明からスタートさせていただきます。

まずは、本からそのまま引用
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●「手中の鳥」の原則
この原則は、「目的主導(goal-driven)」ではなく「手段主導(means-driven)」の行為原則である。
ここで強調されるのは所与の目的を達成するために、新しい方法を発見することでなく、既存の手段で、何か新しいものをつくることである。 

●「許容可能な損失」の原則
この原則は、プロジェクトからの期待利益を計算して投資するのではなく、どこまで損失を許容する気があるか、あらかじめコミットすることである。

●「クレイジーキルト」の原則
この原則は機会コストを気にかけたり、精緻な競合分析を行ったりすることなしに、(コミットする意思を持つ)全ての関与者と交渉していくことにかかわる。さらに経営に参画するメンバーが、企業の目的を決めるのであり、その逆ではない。

●「レモネード」の原則
この原則は、不確実な状況を避け、克服し、適応するのではなく、むしろ予期せぬ事態を梃子として活用することで、不確実な状況を認め、適切に対応していくことを示している。

● 「飛行機の中のパイロット」の原則
この原則は、技術トランジェクトリーや社会経済学トレンドのような外的要因を活用することを起業家の努力を限定するのではなく、エージェンシーとして人間に働きかけることを、事業機会創造の主たる原動力とすることを示している。

「エフェクチュエーション 市場創造の実効理論」著:サラス・サラスバシー 監訳:加護野忠男 訳:高瀬進/吉田満梨
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『予測の不確実性と複雑性への対処法』理論から学ぶ「エフェクチュエーション」
一つずつ簡単に補足すると
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◆【原則①「手中の鳥(Bird in Hand)」の原則】
(Who I am)(What I know)(Whom I know)既存の手段とは個々人のもつ人間性から、これまでに身に着けた能力、専門性、また人間関係や人脈、頼れる人といったものを活用していくこと。

ちなみに英語のことわざで
“A bird in the hand is worth two in the bush.” 
手の中にある1羽の鳥は繁みの中の2羽の価値がある。

個人的にこの意味合いも含まれていると考えています。

◆【原則②「許容可能な損失(Affordable Loss)」の原則】
ひと・もの・カネ・情報といった経営資源の投資をどのタイミングならどこまで許容できるかをあらかじめコミットすること、期待利益や目標売上といったものより損失をどこまで許容できるかに重きをおくこと

◆【原則③「クレイジーキルト(Crazy-Quilt)」の原則】
パズルではなくクレイジーキルトであることの意味があって関与するメンバーに大小、強弱は関係なく、一方で相互依存的であり共働、共創の必要性があること。
参画するメンバーが目的を共有していくことも重要であるということ

◆【原則④「レモネード(Lemonade)」の原則】
こちらは有名な英語のことわざ“When life gives you lemons, make lemonade.”

「人生が君に欠陥品(すっぱいレモン)を与えたら、レモネードを作れ!」

ビジネスにも通用するとされていて「苦難の中でも、できるだけのことをしなさい」
「良くない事態が起きても、それをうまく使える事がある」「逆境をうまく利用しろ」ということ

◆【世界観「飛行機の中のパイロット(Pilot-in-the-plane)」の原則】
「飛行機の中のパイロット」の原則、本で書かれている意味あいが少しわかりにくいので、原則でありながらすべての原則に通ずる世界観とし以下のようにまとめ直してみました。

日々の変化対応を心がけること
「これまで述べた4つの原則を貫く世界観が、『飛行機の中のパイロット』の原則です。
パイロットには、常に数値を確認し、状況に応じて臨機応変に迅速に対応する能力が求められます。

パイロットのように、不確実な状況においても、その時々の状況に応じて調整していくことが肝要。

世の中、社会には「制御できるもの」と「制御できないもの」があって、「制御できるもの」(ひと・組織の能力や手段)で「制御できないものを」を制御していこうとすること、またその取り組みがこのパイロットの原則に集約されていると考えています。
・・・ここ少しわかりくいかもしれませんが、実はブログのテーマである『予測の不確実性と複雑性への対処法』すべてがここにつながっていきますので、次回以降のブログでも詳しくお伝えさせていただきます。
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さてここで再度、本から
上記の5つの原則は、「非予測的コントロール(non-predictive control)」のテクニックを具現化したものである。
つまり、不確実な状況をコントロールするにあたり、「予測をもとにした戦略(predictive strategy)」の使用を減らすことを志向する。これらの原則は総体として、「エフェクチュエーション」と呼ばれる行為の論理を示している。
「エフェクチュエーション 市場創造の実効理論」著:サラス・サラスバシー 監訳:加護野忠男 訳:高瀬進/吉田満梨

「エフェクチュエーション」は日本語に訳すると実践、実効論であり反意語は「コーゼーション」は、因果論となります。
このコーゼーション的アプローチが、多くの企業がとる、中長期から短期予測をもとに目的、目標を設計し、そのための取り組むべき手段の選択や、新しい手段の発見を目指すもの。それに対してエフェクチュエーションに基づくアプローチとは、予測をもとにしない戦略を用いて、所与の手段から新しい目的を創りだそうとする取組となります。
コーゼーションの論理の前提が「未来を予測できる範囲において、我々は未来をコントロール(制御)することができる」とする一方、エフェクチュエーションの論理の前提は、「未来をコントロール(制御)できる範囲において、我々はそれを必要がない」という考え方となります。
著者であるサラスバシーはエフェクチュエーションとコーゼーション、2分法的な形にはしてはいるものの、どっちが良い、悪いではなく起業家は双方のアプローチを、さまざまな組み合わせで用いている。
それは起業家の熟達の度合いや、企業がそのライフサイクルのどこにいるかによっても変わってくるとしている。
ただエフェクチュエーション理論がこれまでの起業家的行動に関する広く認められた理論からすると特殊に感じてられてしまうが、他に類を見ない効用をもっているという点を唯一主張する点であり著著を通して成し遂げようとしていることとしている。
エフェクチュエーション理論は、改めてまとめてみると、予測の不確実性や複雑性が増す社会の中で、「不確実な環境の中に、比較的安定した予測可能な世界を局地的に作ろうとする取組」ということばで第二回のブログを〆させていいただきます。

次回以降は、どういった研究を通してこの理論形成にいたったか?またマーケティング観点からのエフェクチュエーション理論の活用などお伝えさせていただきます。

大島直彰 氏
大島 直彰(大島 なおあき)講師

【経歴】
神戸大学経営学部卒 1993年関西テレビ放送(株)入社、2020年9月に関連会社である(株)関西テレビハッズに出向、新規事業推進室長(カンテレHRアカデミー長兼講師)

(多摩大学経営情報学研究科 経営情報学専攻修士課程MBAコース2012年修了 経営情報学修士 組織学会会員)



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